ハーグ条約加盟案について知っておくべきこと

2013年05月27日 17:39

 日本でも国際結婚が破綻した時の子供をめぐる争いが問題になって久しい。

 「ハーグ条約」の加盟承認案と国内手続き法案が成立した。早ければ今年度内に加盟が実現することになる。

 ハーグ条約は、親の一方が16歳未満の子どもが居住していた国から国外に連れ去った場合、居住していた国にいる親が返還を求めれば原則として一旦、元の国に戻すことに応じるとしている。また片方の親が他方の親の同意を得ずに子どもを連れ去った場合には、たとえ実の親であっても誘拐罪に問われる可能性がある。

 条約には現在89ヶ国が加盟しているが、主要8ヶ国(G8)の中で日本だけが未加盟である。近年、G8などの先進諸国は日本の加盟を強く迫ってきており、その要求が今回の法案成立で実現することになる。また興味深いのは、加盟国の多くは、欧米でありアジアやアフリカは少ない。アジアでは韓国と香港特別区のみである。今回、日本はアジアで三番目の加盟国となる。

 主に日本人の母親が、子供を日本に無断で連れ帰るケースの増加が国際的に問題視されているのが、加盟が求められてきた大きな理由である。

 ここで、ハーグ条約に日本が加盟することで得られるメリットについて考えてみる。まず、加盟国の当局(日本の場合は外務省)や関係機関との連携・協力が促進され、国境を越える子供の連れ去りや面会などについての問題解決が迅速かつ円滑になる。また、日本から国外(加盟国)へ無断で連れ去られた子供の返還についても迅速に求めることが可能となる。それから、未加盟国であることを理由とする日本への子供を伴う渡航制限の改善が期待される。

 筆者は、加盟による大きなデメリットはないと考えている。ただし問題点はある。たとえば、条約は、子の返還を拒否できるケースを「子の心身に害を及ぼす重大な危険がある場合」と定めている。今回の国内手続き法案は、家庭内暴力(DV)の恐れが認められる場合、また外国での子育てが難しいと判断された時も、日本の裁判所(東京と大阪の家庭裁判所)が返還を拒否できるとしている。

 この「返還拒否」を日本が熟慮なしに判断した場合、条約そのものの意義が形骸化して、結果的に加盟国から疎外されるのでないかと筆者は危惧している。しかしながら、この「返還拒否」を無分別に運用すること避けることができるならば、今回の法案成立は外圧から始まったとはいえ、問題を抱えた両親、そしてなによりも何の罪もない子供にとって歓迎すべきことではないだろうか。

 なお、ハーグ条約とは、オランダのハーグで締結されたハーグ国際私法会議で締結された国際私法条約の総称であり、国際離婚した場合の子供を巡る争いを解決するためのルールは、正式には、「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」といい、通称としてハーグ条約と呼ばれている。この他にも、ハイジャック防止条約なども、ハーグ条約と呼ばれることがある。(編集担当:久保田雄城)