新しい医学教育のモデルを提唱 東京都の検討会

2009年08月10日 11:00

 医療の質の確保と医師の資質向上につながる医学教育システムの構築のため、臨床能力の高い医師を養成する専門職大学院の実現に向けて、東京都として何をすべきかを検討してきた都のメディカルスクール有識者検討会(座長・鴨下重彦国立国際医療センター名誉総長)が検討を重ねてきた結果をまとめ、都知事本局長あてに今月、報告を行った。

 新しい医学教育のモデルとして現行の大学における6年制医学部と異なる医師養成システムを提唱している。具体的には「アメリカ型メディカルスクール(学士を対象とした4年間の教育システム)」や「3年次選抜型の4年制医学部(他の大学や他の学部で2年以上の教養課程を修了しているか、卒業している人を対象にして、入学選抜を行う方式)」で、アメリカ型メディカルスクールの場合には医師法の改正や専門職大学院設置基準の改正が必要になり、3年次選抜型の4年制医学部では、学校教育法や学位規則の改正が必要になる。

 検討会は「新しい医学教育制度を導入するには制度設計、予算、スペース、運営システム等、多くの検討課題がある。具体的検討に入る前に都の主体的な姿勢と財源の明確化が求められる」としている。

 この検討会は鴨下国立国際医療センター名誉総長、川直樹慶應義塾大学名誉教授、岡崎祐士東京都立松沢病院長ら12人の有識者らで構成され、2007年8月から8回にわたって、検討してきた。その過程では日本の医学教育においての問題点も浮き彫りにされた。

 報告書は現在の医学教育の課題として(1)自習時間が少なく、社会的な成長が米国の医学生よりも遅い(2)試験対策に割く時間が多く、実習の時間が十分に確保されていない(3)米国ほどに医師の専門分化が進んでおらず、コア・カリキュラムが浸透していないなど、学生が未成熟であったり、試験対策に長時間をかける教育のあり方などを問題として指摘するとともに、「医学生の医行為について社会的合意が十分に得られていない」と実践的な教育に対する制約など、改善すべき点を明確にした。

 こうした問題点を指摘したうえで、「医学教育改革を考える場合、同時に生涯教育のあり方を検討すべき」「多様な人材が医療を担うメリットは考慮に値する。リベラルアーツの基礎を持ち、臨床能力に優れ、人を診ることのできる医師を育成できるよう医学教育機関の改革が必要」と提言。「現在の学士編入学者の中には勉学意欲の低い学生も含まれるという問題も留意すべき」と報告している。

 このため、適性を欠く学生については在学中の進路変更が容易な医学教育システムとすることや「臨床医の資質、ボランティア経験など多様な面を評価し、全国から優秀な人材を選抜するよう、入学者の選抜方法や奨学金制度の充実を図るなど学生の意識改革を促進させる手法の導入を検討すること」も提案している。また、基礎医学を十分に踏まえることを前提として「実習中心の臨床医学教育を行うこと」の必要などをあげている。
(編集担当:福角忠夫)