昨年、地域医療の基本方針となる医療計画に盛り込むべき疾患として、従来の癌・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病に加えられた「精神疾患」。特にうつ病の患者数増は著しく、厚生労働省のデータによると、平成8年には43.3万にであったうつ病等の気分障害の総患者数が、平成20人に104.1万人と、12年間で2.4倍になっている。こうした状況を受けて抗うつ薬市場も、1999年に初めて選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)と呼ばれる新しいタイプの抗うつ剤が日本に導入されたこともあり、2~3年で2倍以上に拡大。抗うつ効果や抗うつ薬に対する研究も進んでいる。
11月30日にはファンケルが、胎児脳の発達や神経栄養因子として「脳にとっての必須アミノ酸」と言わるセリンにつき、うつを軽減させる可能性があると発表。ファンケルは、これまでにもセリンの「抗不安効果」や「催眠効果」を明らかにし、睡眠サポート商品「セリンドリンクすやりん」に配合、販売していた。今回発見された新規有効性「抗うつ効果」は、日本アミノ酸学会第6回学術大会にて優秀ポスター賞を受賞している。
また、今夏には東北大学が、抗うつ薬「セルトラリン」がパーキンソン病などの進行抑制に効果がある可能性について発表。パーキンソン病はアルツハイマー病に次いで頻度の高い神経変性疾患で、超高齢化を迎えた先進国に置いて大きな社会問題になっている一方、治療の基本は対処療法に留まっており、進行予防や根本医療法は未だに確立されていない。しかし今回の発見により、早期に病気を発見しセルトラリンの服用を開始することで、周辺への病変拡大が抑えられ症状進行を遅らせることが期待されるという。
抗うつ剤、睡眠障害治療剤、統合失調症治療剤など10品目を対象とした富士経済の調査によると、中枢神経領域治療剤市場は、2011年に前年比7.3%増の5143億円となっている。抗うつ剤や統合失調症治療剤を中心に市場が拡大しており、中長期的にも統合失調症治療剤、抗うつ剤が市場を牽引。また、高齢化に合わせて患者数増加が想定され、2020年には2011年比29.8%増の6678億円にまで拡大すると予測されている。新規の効能発見や、治療方法の確立されていない病に対する新たな可能性が広がるのは歓迎すべきことである。しかし、この市場の拡大は、高齢者社会の進展を前提としていることからも、保険料の増加などにより若年層への負担が増加するものとなる。早急に、市場の拡大を単純には迎合できるような施策や政策が求められるのではないだろうか。