日本の過疎化を食い止める、最先端の光

2013年07月27日 18:15

 平均寿命の伸びや出生率の低下により、少子高齢化が急速に進んでいる。また、少子高齢化に伴って、地域の過疎化も加速し、深刻な問題となっている。過疎化自体は今に始まったことではなく、さかのぼれば昭和30年代以降、日本経済の高度成長期に、地方の農山漁村地域から都市地域に向けて、若者を中心に大規模な人口移動が起こったことが始まりだ。

 人口が減ってしまうことで、その地域における生活水準の維持が困難になり、生産機能も著しく低下してしまう。身近な問題としては、教育や医療、防災など、基本的な生活条件を確保し、維持することにも支障をきたすようになる。

 総務省では、2010年3月末で期限切れを迎えた「過疎地域自立促進特別措置法」に代わり「過疎地域自立促進特別措置法の一部を改正する法律」を制定、引き続き2015年度までの6年間、過疎対策を実施するとしている。しかし、これまでにも町おこし、村おこしのための試みが数多くなされてきたが、実際のところ一時的な知名度の上昇や、観光目的の客が増えることはあっても、地域人口自体が増えるようなものはなかったのが現状だ。

 ところが、徳島県の過疎地域のある試みが成功し、過疎問題解決の一つのモデルケースとして、全国の自治体関係者らを中心に注目を集めている。その地域とは、徳島県の徳島市から西へ約30Kmほど山に入ったところにある、すだちと梅が特産の町、神山町。人口約6300人。公共交通機関は1時間に1本のバスだけという過疎化の進んだ町だったが、ITベンチャー企業などの誘致に成功したことで、若者が移住し始めたというのだ。

 神山町ではまず、地デジ移行に伴う難視聴対策として支給された国の補助金など約220億円をかけ、10年がかりですべての集落に光ファイバー網を張り巡らせた。その結果、全国でも屈指のブロードバンド環境を整えることに成功し、県内ほぼどの地域でも光回線によるインターネット通信が可能となった。さらに、築100年という古民家をリフォ-ムして、月5万円の家賃で貸し出した。支社の開設費用が都市部の約1割程度という格安さも大きな魅力の一つとなって、東京や大阪に本社を置く計9社のIT関連企業が、古民家を改築してサテライトオフィスを開設しはじめたのだ。

 のんびりとした里山の暮らしと、最新のブロードバンド環境を兼ね備えたことで、IT企業の人気が高まった。中には、のどかな外観からは想像できない、モニターが20台もある古民家オフィスもあるという。

 さらには、テレビ番組詳細情報の編集や配信を手掛けるプラットイーズは、次世代のテレビ規格として国内外で注目され、技術開発が進められている「4K」「8K」の実証実験を行う新会社「えんがわ」を同町に設立、7月より4K、8K映像の配信や保存、活用事業を展開している。同社では今後、都心と神山とを結ぶ高速通信回線を整備し、放送局などと大容量の映像素材をやり取りする計画を進めている。

 日本人的な考え方としては、実際に顔をつき合わせてするのが「仕事」という意識が未だに根強く存在しているが、インターネットや携帯電話などの通信技術が発達した現在、必ずしも大都市圏だけがビジネスエリアではなくなりつつある。市場を世界規模で捉えている企業の場合は尚更だ。最先端のITと光ファイバー網が、文字通り古き良き日本を救う一筋の光となるかもしれない。(編集担当:藤原伊織)