消費者に愛され続けるものづくり。大企業の新たな挑戦

2013年11月09日 19:47

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ロート製薬と新潟の会社・古町糀製造所は、事業規模や形態は違えど、ものづくりに対する真摯で熱い想いが消費者の一人ひとりに末永く愛され続ける製品をつくりだした。

 2011年の後半から、様々なメディアで取り上げられたことによって、一大ブームとなった「塩糀(しおこうじ)」は、その名の通り、日本酒や味噌などの発酵食品を製造するときに用いる糀に塩や水を混ぜて発酵・熟成させた、日本古来の伝統的な調味料だ。
 
 古くは、野菜や魚などの漬物床として利用されていたものだが、魚や肉を塩糀の中に漬け込むと、食品中のでんぷんやたんぱく質がブドウ糖やアミノ酸へと分解され、うまみが増すことがわかり、それが情報番組や雑誌などで取り上げられたことで、ブームに火がついた。また、和食だけでなく洋食の調味料としても手軽に使えるという用途の広さも主婦層に受け、あれよあれよという間に、どこのスーパーにも数種類のメーカー品が並ぶ大人気商品となったのだ。

 だが、この全国的なブームよりも少し前、糀の持つ不思議な力にいち早く着目した、異業種企業同士の共同開発商品が開発され、静かな注目を集めていた。

 企業の片方は当然、糀を作る会社。米処の新潟で麹を使ったドリンクやスイーツを販売する「古町糀製造所」。そしてもう一方は全国的に名の知られた大企業、ロート製薬<4527>だ。ロート製薬といえば、目薬で国内トップシェアを誇る製薬会社。そんな大企業が社員10名ほどの小さな地方企業とコラボレーションする背景には、大企業ならではの葛藤があった。

 ロート製薬は、主に目薬で有名な会社だが、2001年に化粧品分野に進出し、こちらも今では売り上げの60パーセントを占めるほどの急成長を遂げた。外部から見れば、新事業も好調で順風満帆のように思えるが、実は内部の関係者の間では、一つ一つの商品サイクルが短くなっていることに対して危機感を募らせていたという。

 サイクルが短いからといって、製品に対する消費者の反応も決して悪いわけではない。ただ、自社製品、他社製品を問わず、次々と目新しい商品が発表されるために、どうしても顧客の興味がそちらに移ってしまうのだ。次々と新しいものを作り続けて世の中に話題を提供することは、企業としては決して悪いことではない。しかし、それではいつまで経っても、イタチごっこだ。何より、息の長い商品、愛され続ける商品を開発しなければ、消費者のためのものづくりとはいえない。

 そんな現状を打開するための新しい一手として、ロートがとった戦略は、マスマーケットの考え方をあえて封印することだった。「ヒットさせなければいけない」という売り上げ第一の、大企業の根本的な概念をあえて捨てることで、売り上げ以上のものを目指し、そこに活路を見出そうとした。

 そして、その中で出てきたのが「糀」という存在だった。

 糀は、米などの穀物に麹菌を繁殖させたもので、ビタミンやアミノ酸が豊富に含まれており、以前から健康志向の強い人たちの中では注目されていた。また、日本酒の製造過程で使用されることでも知られているが、酒造りでは冷たい水にさらされるため、どうしても職人たちの手肌がザラザラに荒れてしまうが、唯一、糀にふれている間だけは、手肌が輝くといわれているほど、不思議な力を秘めている。

 ロートの開発者は、この「糀」に着目し、マスではなく小さなマーケットとして、地元のものを地域密着で製造するため、新潟の新潟産の米から作った糀を使った商品を販売している「古町糀製造所」をパートナーに選んだ。

 古町糀の方も、それまでにも何度か、他の企業からもコラボ商品の提案が持ちかけられたが、ことごとく断ってきた。大企業とコラボすれば売り上げは上がるかもしれない。でも、それは古町糀のものづくりのコンセプトとは正反対の考え方だったからだ。古町糀の経営者である葉葺正幸氏は、かつて東京で数々の飲食店舗を手がけてきた実業家だった。しかし、利益優先、効率重視の経営体制を推し進めた結果、失敗し、多くの店舗を閉店することになってしまった。その辛酸をなめた経験から、葉葺氏は古町糀製造所では、売り上げ重視ではなく、地元の素材を使った商品で、一人ひとりの顧客と対話する地元密着の商売を目指していた。そのため、「コストを抑えるために国産米は使えない」というような、思いが通じることのない企業とのコラボは断らざるをえなかったのだ。しかし、この考え方は、ちょうどマスビジネスの考え方を封印して、本当にいいものづくりをしようと踏み切ったロートと一致した。