西武の再上場」に、期待しすぎるのは禁物か?

2012年08月27日 11:00

 出戻りでも「大型IPO」と期待する証券界

 経営再建中の日本航空の再上場が9月19日に迫った。その陰に隠れているが、西武鉄道も年内再上場が噂されている。上場を予定するのは持株会社の西武ホールディングス(以下、西武HD)なので形式上は新規上場だが、2004年12月17日に有価証券の虚偽記載問題で上場廃止になった西武鉄道の再上場とみてよい。

 西武鉄道の上場廃止後、2006年にグループ内で資本関係の大幅な再構成が行われ、オーナー堤家の”家業”で同社を実質支配してきたコクドはプリンスホテルに吸収合併され解散。鉄道業の西武鉄道とレジャー関連のプリンスホテルの株をそれぞれ100%保有する持株会社、西武HDが誕生した。西武鉄道は日本航空と違って経営破たんしたわけでも公的資金の注入を受けたわけでもなく、本業の鉄道事業の営業収益は1000億円を少し超えたレベルでずっと安定している。そのため”新生・西武”の再上場は2007年から昨年まで何度も浮上しては報道が先走り、会社側が否定を繰り返してきた経緯がある。それでも今年は西武鉄道の創立100周年の年だけに「今度こそ本物か?」と、特に証券界では期待がふくらんでいる。

 もし9月の日本航空に続く大型IPO(株式公開)案件が本決まりになれば、年内に予定されている財務省のJT株放出、来年1月に東証と大証が合併して誕生する「日本取引所グループ(仮称)」の上場へ続く大きな流れができ、売買高の不振にあえぐ株式市場の活性化につながるからである。しかし、西武HDの財務内容は決してほめられたものではなく、しかも中期事業計画で収益化まで何年もかかりそうな大型投資案件が数多く浮上。もし上場しても株価の低迷がしばらく続き、すぐに結果が出るのを求める傾向が強まっている最近の投資家の期待を裏切る結果になりかねない。

 赤プリ跡地「紀尾井町計画」の完成は4年後

 西武HDは決算を公開しており、2012年3月期の1株当たり純資産は624円。8月23日の日経平均採用銘柄の株価純資産倍率(PBR)は0.96倍で、それで計算すると予想株価は599円になり、同じ鉄道業の相鉄HDの272円、東京急行電鉄の391円、東武鉄道の436円を上回り、京王電鉄の613円とほぼ肩を並べる。それを見ると株式市場に復帰しても関東の他の大手民鉄にひけをとらないようだが、貸借対照表(バランスシート)上の有利子負債が長短合わせて7830億円もある。決算時に同社から発表されたネット債務残高は8311億円で、キャッシュフロー計算書の現金及び現金同等物の期末残高258億円に対してあまりにも過大と言える。

 「それでも西武HDの発足時の有利子負債は1兆3500億円もあったのだから、ここまでよくやってきた」と、メーンバンクのみずほコーポレート銀行出身の後藤高志社長の手腕を評価する声は少なくない。その軌跡を、約2兆5000億円あった有利子負債を10年足らずで1兆円以下に圧縮して06年に新規上場を果たした出光興産の天坊昭彦社長(現会長)になぞらえる向きもあるが、出光は上場までに約60%削減したが、西武はまだ約40%しか削減していない。コクドあたりから受け継いだ「負の遺産」は依然、重くのしかかり、最近の株式市場の状況を見ると、上場に伴う公募増資で負債減らしに明るい展望が開けるとも思えない。それでいて、今年3月に発表した中期事業計画の中身は、巨額の投資がかかりそうな大型プロジェクトが目白押しだ。

 その目玉が「紀尾井町計画」で、東京都千代田区紀尾井町の「グランドプリンスホテル赤坂(赤プリ)」の跡地に250室のホテル、オフィス棟、商業施設、約130戸の住宅棟などを建設する。それが完成して収益化するのは早くても4年後の2016年となっている。西武鉄道旧池袋本社ビルを建て替えて賃貸オフィスビルにする計画も完成は2016年の見通しで、西武線沿線の駅周辺地区の再開発も時間がかかりそうだ。この中期事業計画は、依然として多額の有利子負債から見て、近いうちの上場とエクイティファイナンスによる資金調達を前提としているとしか思えない。それも年内上場が噂される根拠になっている。はたして、その目論見通りに事が進むのだろうか?

鉄道業としてこの世に再生したとは考えない

 日本格付研究所は今年1月、西武HDに対し「BBB+」というやや辛口の長期優先債務格付を付与した。その理由には、こう書いてある。「リストラの実施等により有利子負債の削減が進んだが、依然としてキャッシュフローに対し有利子負債が過大な状況にあり、財務構成も改善の余地が大きいと考えられる。財務に配慮した投資方針を堅持しているが、計画が進むグランドプリンスホテル赤坂跡地再開発については投資規模が大きいことから財務への影響に注目している」。

 西武HDは、現預金残高が多い企業ほど優良企業と評価される昨今の「キャッシュリッチ企業」礼賛の流れに明らかに逆行している。それがアナリスト筋の心証を悪くしている。しかし、痛恨の上場廃止を経て、西武HDは現金商売の安定イメージの鉄道業としてこの世に再生した、と考えてはいけないのかもしれない。かつてのコクドほどではないが、その何十分の一かのデベロッパー事業を受け継いでやっていると思って、巨額の資金を寝かせるから有利子負債が多いのは当たり前の建設・不動産セクターの1社だと割り切って考えれば、それなりに面白みが出そうな会社だ。紀尾井町開発などは、既成概念で凝り固まった大手不動産会社にはちょっとマネができないような発想をとり入れていて、東京都心の新しいランドマークになれば、西武のステータスは上がりそうだ。視点を変えれば、良さが見えてくる。