廃線と廃線からの復活 ふたつの事例に見る現代の地方鉄道事情

2014年05月11日 14:58

 1960年以降、地方で多くの鉄道が廃線になった。自動車購入率が上がって自家用車が普及したことなどが主な理由だ。しかし、昨年大ヒットしたドラマ「あまちゃん」では三陸鉄道・北リアス線が注目を浴びるなど、地方ローカル線は今、脚光を浴びている。鉄道ファン好きを公言するタレントが数多く現れたり、復活のための取り組み(SLを走らせる、ゆるキャラ、イベント)がテレビに取材されることも多い。

 今月JR北海道の江差線の木古内駅―江差駅間が廃線になる。2011年度の輸送密度(1キロ当たりの1日平均利用者数)がJR北海道の中で最も低いため、大幅な赤字で収支改善が期待できないことが理由だ。江差駅が所在する江差町の人口は8,566人(13年末現在)。江差中心部から函館へは路線バスが1日6往復運転されており、所要時間も運賃もJRとほとんど変わらない。だから、廃止しても代替手段が存在するわけだ。利用者や鉄道ファンは悲しむが、住民への影響は限定的だろう。

 こうした動きとは反対に広島市とJR西日本<9021>は、16年春に不採算で廃線となっている可部線を復活させる。可部線とは広島県広島市西区の横川駅から同市安佐北区の可部駅に至る路線であり、現在の終点である可部駅から約1.6kmの区間を復活させるものだ。周辺の人口が増加していること、地域住民の熱心な活動などがこの決定を可能にしたといわれている。住民が定期的に草刈をする、イベントを開催するなどの活動を継続的に続け、市は既存設備を撤去しないなど活動を支えた。
 
 しかし、人口減少社会では、可部線の事例は特殊な事例といえるだろう。多くの自治体では、人口は減り、企業進出もなかなか進まず、地域は厳しい状況に置かれている。鉄道に乗るのは通学の高校生がメインであるというのが実情だ。観光資源としていろいろな取り組みを行っているものの、どこのローカル線も苦しい。地方公共団体は補助金を出して、多くの全国のローカル線を支えている。列車が走るための軌道と自動車が走るための道路の双方を走ることが出来る車両「デュアル・モード・ビークル」も開発され、実証実験や試験運行が行われているが、なかなか難しい。ますます廃線への動きが強まっていく中、住民は心情的には「廃線に反対」だとしても、自家用車を使用し、電車には1月に1回以上は乗車しない、バスなど代替手段はある。その一方で、税金が使われ続ける現実を冷静に考えて、廃線か否かを考えるべきだろう。(編集担当:久保田雄城)