第46回市村賞発表。京大教授が産業賞と学術賞でW受賞

2014年05月10日 19:46

 「書いたものより口約束こそは守れ。うそをついてはいけない」これは日本を代表する経営者の一人で、リコーを中心とする、リコー三愛グループの創始者である市村清氏の言葉。今の時代だからこそ、肝に銘じたい言葉であるが、そんな市村氏の名を冠する「市村賞」の授与式が今年も東京で開催された。

 「市村賞」は、晩年に氏の提唱により、技術革新のための研究開発助成を目的とした財団法人として設立された「新技術開発財団」が、彼の遺志を継いで科学技術の分野で学術、産業の発展に貢献した技術開発者またはグループを表彰しているもので、市村賞には企業向けの「産業賞」と大学・研究機関向けの「学術賞」がある。審査委員は、東京大学名誉教授の菅野卓雄審査委員長をはじめ、文部科学省文部科学審議官の土屋定之氏ら、そうそうたるメンバーが名前を連ね、歴史と権威を感じさせる。

 第46回となる今回は、「バリウムフェライト磁性体を用いた大容量データテープの開発と量産化」で、富士フイルムホールディングスのグループ企業である富士フイルム株式会社と同社の技術開発者3名が「市村産業賞」本賞を受賞したほか、功績賞にはパナソニック株式会社、貢献賞には、富士通グループの株式会社富士通研究所及び富士通テン株式会社や、新日鐵住金株式会社や株式会社GSユアサなどが受賞した。

 中でも今回注目されたのが、同じく貢献賞を「高効率SiCパワーデバイス・モジュールの開発と実用化」というテーマでローム株式会社と受賞した、京都大学の木本恒暢教授だ。

 その受賞は、次世代の材料として注目されているSiC(シリコンカーバイド)「炭化ケイ素」を用いたパワーデバイス・モジュールの開発と実用化の産学連携での共同研究の功績が認められたもの。SiCは次世代の材料として注目され、SiCパワーデバイスを電力変換機器へ導入されて本格的に稼動すれば、発電所数基分にも相当する膨大な電力ロス低減効果があると試算されているものだが、技術的な課題や量産性の問題が多く、実用化は非常に困難とされていた。受賞者らは、独自の技術を確立することで、2010年に量産化に成功しただけでなく、世界最高性能の達成にも成功している。ちなみにこの分野は今後、EVやHEVなどの電気自動車や鉄道をはじめ、家電やソーラーシステムなど、あらゆる電気製品への応用が考えられており、世界規模での急激な市場拡大が期待されている。また、木本教授はさらに「市村学術賞」の方でも、個人で「炭化珪素パワー半導体の学理および実用化研究」のテーマで受賞していることからも、今後の進展にも期待がかかる。

 市村氏の言葉を座右の銘にしている経営者も多いと思うが、氏自身の座右の銘は「人の行く裏に道あり花の山」だったという。アイデアマンとして名を残す市村氏らしい座右の銘ではあるが、今回の市村賞の受賞一覧を覗いてみれば、それらはすべて今後の日本経済にとっての花の山に見えてくる。これらの花が無事に満開になって、咲き誇ってくれることを期待したい。(編集担当:藤原伊織)