今月、安倍首相は農業改革を議論する産業競争力会議で、「農業を新たな成長産業にするため、農業協同組合のあり方を抜本的に見直していきたい」と述べ、農協改革を林農水大臣に指示した。さらに菅官房長官はより踏み込み、「現状の農業の中にあって(農業協同組合が)今のままでいいと思っている人は誰一人いない。この改革は急がれる」との認識を示し、農協改革の意思を改めて強調した。
安倍政権が改革の意思を示している農業協同組合(JA)は、農業従事者や農業を営む法人によって組織された協同組合で、全国で1万人を超える巨大組織だ。組織に全国一律の指導を行っているのが全国農業協同組合中央会(JA全中)である。今回の農協改革の柱は、このJA全中を頂点とする「中央会制度」の廃止だ。この改革が断行されれば、各地域の農協が地域の実情に応じた自主的な経営をすることが可能になる。
さらに、安倍首相はこの農協改革を、企業の農業生産法人への出資制限の緩和、農業委員会の権限縮小との3点セットで行うことを検討している。これらはどれも、これまで農協によって組織化されていた日本の農業に民間の血を入れるものであり、農業既存の農業のあり方を大きく変えるものだ。
この変化は今になって始まったものではない。民主党政権の「戸別所得保障制度」はこれまでの農業政策における考え方を根本から変えるものだった。同制度は生産に要する費用と販売価格との差額を交付金で穴埋めする制度だが、これによって日本の農業政策は価格の維持に注力してきた「価格政策」から、価格は市場に任せ所得は政策により守る「所得政策」へと転換した。このようにこれまでも農業の問題については頻繁に議論がされてきたが、日本の農業を形作ってきた基盤にメスを入れる今回の改革はその中でも最も思い切ったものだ。
日本の農業は今こそ「攻め」に転じなければならない。そのためにはJA全中が画一的な指導を行うピラミッド構造はもはや障害にしかならないことは明らかだ。かつて今の日本と同じような保護農政を行っていたEU(欧州連合)は、1993年に大農政改革を行い輸出国型農政へと大きく転換した。攻めの農業を実現するため、安倍首相が農業改革を着実に成し遂げることを期待したい。(編集担当:久保田雄城)