ソフトバンク<9984>、正確には米国子会社のスプリントとTモバイルの合併に関する報道が市場を賑わせている。米国経済紙、ウォールストリートジャーナル、ロイターが報じたところによると、この合併の可能性について、承認のカギを握る米連邦通信委員会(FCC)の民主党系委員の見解が一致していない可能性があると伝えた。民主党系のジェシカ・ローゼンウォーセル委員は、スプリントとTモバイルそれぞれが単独では存続できない可能性があることを金融や通信業界の関係者との会合で認めたという。
両社の先行きについてローゼンウォーセル委員がこのような立場を示した背景には、FCCのトム・ウィーラー委員長との確執が影響している可能性は否定できず、実際に提案があった場合に積極的に賛成するとも限らないとしている。歴史を紐解くと、米国の通信業界への日本企業の買収は今に始まったことではない。過去にNTTドコモ<9437>のAT&Tワイヤレスへの出資は携帯事業者に関わる方なら記憶に新しいだろう。ドコモは、1999年に東京証券取引所に上場し、iモードを海外展開するために、オランダのKPNモバイルや香港のハチソンテレコムをはじめ、海外の携帯電話会社に触手を伸ばした。その中でも困難を極めたのがAT&Tワイヤレスだった。規制当局とのロビーイングだけではなく、大きな問題となったのは国際的なビジネスを展開するうえでの組織構造だと言われる。
ドコモは、その後ニューヨークとロンドンに同時上場を果たし、資金調達、ブランド価値の面でも非常に順風満帆かとみられたが、最終的には特別損失を計上し、iモードの海外展開は頓挫している。企業の買収にあたりビジネス展開のスケールメリットを重要視し、すでに基盤ができている企業を買収するのはビジネスの基本であることは間違いない。ただ、買収後の組織再編や企業内の内部統制など、日本企業が日本市場で行っていたものをそのまま導入しても米国市場において通用するかは懐疑的である。承認する米国のFCCの動向が非常に注目されるが、ソフトバンクの米国展開には、このような日本企業の過去の苦い経験が生かされていると切に願いたい。(編集担当:久保田雄城)