高齢化が進むにつれ、医療費は年々増加しており、国民の1年間の医療費総額は約40兆円にものぼるとされている。政府は、安倍首相を本部長とする社会保障制度改革推進本部を設置し、医療費抑制へ向けての対策を検討している。
その内容とは、医療費を低く抑えられている都道府県を標準値として、その数値を目安に、それぞれの県別に医療費支出の目標値を設定するというものだ。数値に使われるのは診療報酬明細書(レセプト)の電子データである。診療や投薬などのデータを分析し、「ムダ」を洗い出して行く方法をとるとみられている。薬の出しすぎや、検査の重複、必ずしも必要のない入院が継続していることなどを問題と据え、かさむ医療費の削減を目指している。
都道府県によって医療費を数値化し、目標を明確に設定することによって、地域の自主的な取り組みが期待されているようにも見える。しかし政府は、もしも目標を達成できなかった場合、ペナルティーを課すことも視野にいれているらしい。
ペナルティーの中身については明らかにされていないが、目標を達成できなかった都道府県に対して、公費負担金を減額することや、数値目標を無視するような医療行為を続ける病院機関名を公表することなどが一部で予想されているようだ。
政府は、目標の達成に応じて、後期高齢者医療制度に払う支援金を加算したいとの考えも示している。すなわち、都道府県に要請する医療費の抑制は、高齢者にかかる医療費捻出の一環であると捉えられる。しかし、都道府県の医療に目標数値の設定が実施されることになれば、政府の地域医療に対する実質的な権限の強化となるため、地域医療の充実を懸念する声も多い。厚労省幹部内でも「ペナルティーを科すような強硬策ではうまくいかない」という見方もあるようだ。
医療は個々のケースに応じて治療が異なるため、数値化された目標に向け、ひとまとめにする考えでは、個人の必要に応じた医療が成り立たなくなるおそれがある。安倍首相が唱える「聖域なき改革」は、地域医療も対象とされるようだが、実施に至るには、さらに慎重な議論が必要だろう。(編集担当:久保田雄城)