脳梗塞の治療に新展開 新潟大が合併症を引き起こすタンパク質を特定し治療法を開発

2014年06月13日 07:54

 脳卒中は我が国での死因の第4位を占め、寝たきりの原因の約3割を占める。このうち、血管が詰まることで発症する脳梗塞は、近年増加し後遺症に苦しむ患者も多く、治療にかかる医療費は増加の一途をたどっているという。

 新潟大学脳研究所(神経内科の下畑 享良(しもはた たかよし)准教授を中心とする研究グループ(川村邦雄医師、高橋哲哉助教、金澤雅人助教ら)は4日、脳梗塞の治療で最も有効とされる血栓溶解療法の弱点とされる合併症(脳出血、脳浮腫)が、アンギオポイエチン 1(Ang1)というタンパク質の減少が引き金となって生じることを世界ではじめて明らかにしたと発表した。

 これまでは、「組織プラスミノゲン・アクチベーター(tPA)」を用いた血栓溶解療法が、血管に閉塞した血栓を溶かし血液の流れを再開するため最も有効な治療法とされてきた。しかし、この治療法は治療可能時間が 4.5 時間以内と極めて短く、脳梗塞患者の5%未満しか治療の恩恵を受けられない。

 これは、発症後、時間が経過すると、脳の神経細胞だけでなく血管にも障害が起こり、脳出血や脳浮腫(脳のむくみ)を生じやすくなるためである。これを受け、同研究グループは、ヒトの脳梗塞に病態が類似したラット脳塞栓モデルを用いてアンギオポイエチン 1(Ang1)というタンパク質の減少が tPA 療法後の血管の障害や脳出血、脳浮腫の引き金となっていることを世界ではじめて明らかにした。

 また、強い活性をもつように合成した Ang1 を tPA とともに 静脈に注射し Ang1 を補充したところ、血管に取り込まれた結果、治療後の脳出血や脳浮腫は抑制され、治療可能時間も延長できることを明らかにした。

 これにより、①tPA による血栓溶解療法がおこなわれる患者数の増加、②副作用である脳出血・脳浮腫をおこす患者が減ることによる予後の改善、③後遺症を残して介護が必要となる患者数の減少と医療費増大の抑制、などに繋がることが期待できるという。なお、この研究成果はこれらの研究成果は、2014年6月4日の米国学術誌『PLOS ONE 』にオンライン掲載された。

 この病気だけではないが、脳梗塞の後遺症は患者本人にも、家族や介護者にも多大な経済的、精神的負担がかかる。早期の実用化で苦しむ人たちの負担が減ることを願いたい。(編集担当:慶尾六郎)