医療関係者の燃え尽き症候群を予測 京大が解明

2014年06月07日 13:26

 医療従事者は日夜、激しいストレスをかけている。現場は忙しいうえに、人の健康や場合によっては生死までも抱えているのだから。しかし、ストレスに対処する能力が充分に獲得されていない経験の浅い医療関係者は、仕事をしているうちに感情的に疲れて燃え尽き、抑うつ的になりやすいことが知られている。

 しかし、これまでの研究では、医療関係者における燃え尽き症候群と共感性の関係では、共感性が高すぎると感情的に巻き込まれて、疲れてしまうという仮説と、逆に医療者は共感的でなければと優等生的に振る舞い疲れてしまうという反対の仮説があった。

 京都大学の高橋英彦 医学研究科准教授、カール ベッカー こころの未来研究センター教授、鄭志誠 医学研究科研究員らのグループは3日、機能的MRIを用いて、医療関係者の燃え尽き症候群の兆候を、共感に関する脳活動の強さで予測できることを明らかにしたと発表した。

 今回の研究では、機能的MRIにより現役の看護師達の共感に関わる脳活動を測定し、これらの仮説を検証した。この結果、燃え尽き症状の兆候が強い人ほど、共感に関わる脳活動が弱く、自分の感情をしっかりと自覚して表現する能力が低下しており、営業スマイル的なことを強いられて疲れて燃え尽きになりやすいことが支持された。

 実験では、経験の浅い現役の看護師 25 名に以下の実験を実施した。 まず機能的 MRI を使って共感に関わる脳活動の強さを調べた。機能的 MRI の撮影中、看護師には、他人の手がカッターやアイスピックで傷つけられている映像をみてもらった。そして自然に他人の感情を共有し、その痛みがあたかも自分の経験している痛みの様に感じるという共感の状態を起こした。さらに撮影後、看護師達の燃え尽き症候群の兆候、共感的な性格傾向、感情の不一致の感じやすさ、アレキシサイミア(自身の感情を自覚したり、表現することが不得意な傾向)のレベルを質問紙による検査で得点化した。

 この結果、まず質問紙の得点どうしの関係では、共感的な性格傾向の一部が高い人は燃え尽き症候群の兆候が強いという一見、同情疲労説を支持するような結果が得られたが、同時にこのような人は自身の感情を自覚したり、表現することが不得意な傾向にあり、その結果の日常的な様々な場面で感情が内面と表現で不一致が生じやすい傾向である事が明らかになった。

 次に、これらの心理質問紙の得点と機能的 MRI で得られた共感に関わる脳活動の強さとの関係を調べた。共感に関わる脳活動として、前部島皮質(anterior insula)、前帯状皮質(anterior cingulate cortex)、側頭頭頂接合部(temporoparietal junction) という脳内の領域に着目して解析を行ったところ、前部島皮質や側頭頭頂接合部の活動が弱い人ほど、逆に燃え尽き症候群の兆候が強い事が明らかになったという。

 ここでは共感に関わる脳活動が弱い人ほど、感情の自覚・表現が不得意で、感情の内面と表現との間に不一致の感じやすい傾向にあり、燃え尽き症候群の兆候が強い事がわかった。

 以上の結果により、同情疲労説(感情的に巻き込まれて、疲れてしまう)よりも、むしろ感情不一致説(表現する感情と実際に感じる気持ちにギャップを感じて、本当の自分の気持ちをうまく感じる事ができずに疲れてしまう)の方が、燃えつき症状の兆候をよりよく予測・説明できることが明らかになったとしている。

 同グループは、この成果は、脳活動を調べることで、従来の被験者自身が答える形の心理検査に加え、より正確に燃え尽き症候群の兆候を予測しうることを示しているという。また、燃え尽き症候群の脳科学的なメカニズムの解明を進め、医療や介護にたずさわる職員に対する燃え尽き症状改善プログラムの開発も目指す。(編集担当:慶尾六郎)