公共事業を“復活”させたアベノミクスによって、建設業界は息を吹き返した。現状では建設業者の倒産は20カ月連続の前年同月比減少となっている。しかし、人件費の上昇、資材価格の高騰が収益を圧迫し、受注の拡大ほどには利益が伸びない収益構造となっていることが指摘されてきた。今後も、東京オリンピックの開催など大型プロジェクトが多数控えているなかで、既に弊害として起こり始めている人手不足などに伴う建設コストの上昇に拍車がかかることも懸念される。
株式会社帝国データバンク(TDB)は24日、2013年度決算にあたる決算短信等の開示資料および同社の保有する企業財務データベース COSMOS1(72万社・480 万期収録)をもとに、2008年度以降の売上高(非連結)・売上総利益・工事受注高が比較可能な主要上場建設会社 47 社の業績および受注動向について分析した。
それによると、13年度の主要上場建設会社47社の受注高合計は12兆1168 億円と、前年度比19.1%の大幅な増加となった。リーマン・ショックがあった 08年度以降の推移をみると、10年度に底を打った受注高は3年連続で増加し、08年度の水準を上回ってきている。12年末に始まったアベノミクスが、少なくとも大手上場ゼネコンの受注高には多大な恩恵を与えていることがわかる。
13年度の主要上場建設会社47社の業績動向を見ると、売上高は前年度比 6.6%増の11兆1152億円、売上高総利益率は 6.6%と前年度比1.0ポイント増、3年ぶりに改善した。売上高では全体の8割に当たる38社が増収。売上高総利益率では47社中40社、全体の約9割で利益率が改善している。「人件費の上昇、資材価格高騰がゼネコン各社の収益を圧迫している」とのこれまでのコンセンサスに反し、収益が改善した個別企業の事情はそれぞれだが、総じて建設事業の粗利益率悪化にある程度の歯止めがかかり(前期赤字だった建設事業のセグメント利益が今期黒字転換した企業も多い)、さらに土木事業の好採算でこれをカバーしたことが要因として挙げられるという。
また、工事受注高の内訳(官・民)が判明している32社の受注高動向を見ると、官公庁工事の受注高合計が前年度比36.5%増の2兆6635億円と大幅な伸びを示し、08年度以降では初めて2兆円台に乗せた。民間工事も前年度比9.9%増の6兆円と、5年振りの大台を回復している。大手上場ゼネコンは官公庁工事と民間工事ともに需要が拡大する、良好な事業環境下にある。
海外工事の受注実績が判明している14社の受注高合計は6569億円と、前年度比 67.2%の大幅な増加となった。海外工事が全体の受注高に占める割合も 8.2%に達しており、大手上場ゼネコンの8割が増収となった背景に、海外事業の貢献もあるという。
TDBでは、この好調の最大の要因は、選別受注の徹底と前年度比36.5%増となった官需の急拡大にあるとしている。昨今の極端な人手不足は、半面、建設事業者が“仕事を選べる”立場になっていることを意味しているという。
もっとも、懸念すべき点もあるという。原価管理の厳格化によって大手上場ゼネコンの収益力が向上する一方、例えば外注加工費の抑制などのかたちで協力会社、下請け先へのシワ寄せは一段と強化されている可能性もあることだ。大手上場ゼネコンの収益力改善がそのまま建設業界全体の方向性となり得るか、もうしばらく動向を注視する必要があるとしている。(編集担当:慶尾六郎)