ヤマダ電機に”花嫁候補”をさらわれたエディオンとケーズ
7月12日、家電量販店首位のヤマダ電機がベスト電器を買収する方針を固めたことが明らかになった。5月11日にビックカメラによるコジマの買収が明らかになってから、わずか2ヵ月後に再び大型買収のニュースが流れ、家電量販店の業界再編「戦国M&A」はいよいよ最終局面を迎えようとしている。
ビックカメラのコジマ買収前の家電量販店業界の売上高の順位は、こうなっていた(2011年度、ヨドバシカメラ以外は連結)。1位ヤマダ電機1兆8354億円、2位エディオン7590億円、3位ケーズホールディングス7260億円、4位ヨドバシカメラ6714億円、5位ビックカメラ6121億円、6位上新電機101億円、7位コジマ3703億円、8位ベスト電器2617億円、9位ノジマ2110億円。
ビックカメラ+コジマ、ヤマダ電機+ベスト電器を足し算すると、こうなる。
1位ヤマダ電機+ベスト電器2兆0971億円、2位ビックカメラ+コジマ9824億円、3位エディオン7590億円、4位ケーズホールディングス7260億円、5位ヨドバシカメラ6714億円、6位上新電機4101億円、7位ノジマ2110億円。
5月11日より前の段階では、エディオン、ケーズホールディングス、ヨドバシカメラ、ビックカメラは、上新電機、コジマ、ベスト電器のどれか1社とくっつけば、ヤマダ電機の下につく2位に浮上することができた。まず5位のビックカメラがコジマを買収して2位になったが、エディオンもケーズホールディングスも、上新電機かベスト電器のどちらかとくっつけば、ビック+コジマを追い越して2位に入ることができた。相手がその下のノジマでは、ビック+コジマに及ばず3位に甘んじる。弱肉強食の戦国時代だから、2位と3位では状況がだいぶ違う。言ってみれば上新電機とベスト電器は、エディオンとケーズホールディングスにとって絶好の”花嫁候補”だった。ところが7月12日に王者ヤマダ電機が、その花嫁候補の一人、ベスト電器をさらっていってしまった。ということで今、残った花嫁候補は上新電機だけとなった。
独立心旺盛な”浪速の元気娘”を口説き落とすのは至難の業か
この春の家電量販店上位企業の花嫁候補だった上新電機、コジマ、ベスト電器。相手がすでに決まったのはコジマとベスト電器だが、どちらも企業体力が弱っていて倒れてしまいかねない「病弱な花嫁」だった。
コジマは売上高が前々期の4495億円から前期は3703億円へ17.6%減少し、ベスト電器は前々期の3409億円から2617億円へ23.2%も減少している。どちらも事業に構造的な問題を抱え、「どこかとくっつかなければ存続が危うい」とも噂されていた。
一方、上新電機は4352億円から4101億円に5.8%減っただけ。地デジ移行の反動、家電エコポイント打ち切りによる業界全体の販売の落ち込みや、関西が地盤で東日本の復興需要にもあまりからめなかったことを考えると、この程度のマイナスなら健闘していると言える。少なくとも「病弱」ではない。関西発祥の大手家電量販店唯一の生き残りで、阪神タイガースの有力スポンサーでもあり、関西での知名度は抜群。財務内容はROE11.90%、自己資本比率35.45%で小売業としては良い部類で、この業界でも特に優良なケーズには見劣りするが、エディオンとは互角にわたりあえる内容だ。
たとえてみれば、「地元の関西なら任せといてや」とドーンと構え、将来は豪快な”関西のおばさん”に成長しそうな”浪速の元気娘”で、独立心はきわめて旺盛。他社のM&Aの動きを見て「関西から高みの見物させてもらいますわ」と言いかねない。ケーズが茨城、エディオンが名古屋や広島でやっているノリで「一緒になろうよ」とヘタにチョッカイを出すと、「なめたらあかんで」とシバかれるのがオチだろう。口説き落とすのが至難の業の、厄介な花嫁候補だ。
それでも下手に、下手に出て、それ相応のおいしいプレゼントを進呈して、「包括的な資本・業務提携」のような対等な関係に近いニュアンスの提案を行えば、プロポーズに色よい返事をしてくれるかもしれない。それでも主導権は完全に”彼女”に握られている。
「西日本連合」?「東西連合」?「略奪婚」?「一生独身」?
家電量販店のM&Aが盛んな理由の第一は、仕入先への価格交渉力を強化して同じ商品に他店よりも安い値札をつけられるようにすること。40%以上の資本関係があれば家電メーカーから共同仕入れができるという業界内のルールがあり、それなら買収して子会社にしなくても、資本・業務提携を組めればそれでよい。元気な上新電機はコジマやベスト電器のように暗に「救済」を求めてはいないので、他社と組むのなら完全に買収されるのではなく「包括的な資本・業務提携」のような形になる可能性は高いと思われる。あるいは「対等な立場で共同持株会社設立」ぐらいはあるかもしれないが、少なくとも吸収合併されて社名が消えるのは関西の雄、上新のプライドが許さないだろう。
2002年から2年ほど、上新電機はエディオン、ミドリ電化、サンキュー、デンコードーと「ボイスネットワーク」という名で業務提携し”グループ交際”していたことがある。エディオンとはお互いまんざら知らない仲ではない。それが「西日本連合」に発展するのか。それともケーズが優秀な財務内容で誘惑してバランスの良い「東西連合」に持っていくのか。それともヤマダ電機がビックとベストの仲を引き裂いたように剛腕で「略奪婚」して自分のものにするのか。それとも、あれこれ浮き名を流しながらも結局、一生「独身」を貫くのか。
”大物花嫁候補”新電機の去就は家電量販店の業界再編「戦国M&A」の行方を左右しかねないだけに、どうなるか注目される。