【2015年の展望】株価を上昇させるものは為替レートでも企業業績でもなく「政策」

2015年01月01日 12:02

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効果的な経済政策を示せば日経平均20000円突破は可能とみるが、それよりも上の水準は成長戦略の成果がはっきり目に見えることが必要だろう。

 2015年の株価はどうなるか? これまで2年間の「アベノミクス相場1.0」では、為替レートの円安進行や企業業績の回復が株価上昇の原動力になってきた。しかし、2015年以後の「アベノミクス相場2.0」では、株価を上昇させる最大の要素は第三次安倍内閣が示す「政策」になるとみる。

 ■為替、企業業績との連動性が薄れた日経平均

 「為替の円安が進めば日経平均は上昇する」「企業業績が改善すれば日経平均は上昇する」と、単純に信じていないだろうか? 直近のデータは、必ずしもそうではないことを教えてくれる。

 最近3年間の日経平均の年間騰落は、2012年は+1939.83円で+22.9%、2013年は+5896.13円で+56.7%、2014年は+1159.46円で+7.1%だった。為替のドル円レートは2012年は9.07円、11.8%の円安、2013年は19.14円、22.3%の円安、2014年は14.31円、13.6%の円安だった。東証が集計している「決算短信集計結果」によると、金融業を含む全上場企業の経常利益の合計は、2011年度(2012年3月期まで)は31兆8975億円で前年度比-7.8%、2012年度(2013年3月期まで)は35兆171億円で前年度比+9.8%、2013年度(2014年3月期まで)は47兆1832億円で前年度比+34.7%だった。

 このデータから株価と為替の関係を眺めると、2012年は11.8%の円安に対して日経平均は22.9%上昇で1.94倍のペース、2013年は22.3%の円安に対して日経平均は56.7%上昇で2.54倍のペースだったが、直近の2014年は13.6%の円安に対して日経平均は7.1%上昇で、0.52倍と大幅にペースダウンしている。株価と企業業績の関係を眺めると、2012年は企業業績-7.8%に対して日経平均は22.9%上昇で株価が大きく先行し、2013年は企業業績+9.8%に対し日経平均は56.7%上昇で株価が5.79倍のハイペースで動いていたが、直近の2014年は企業業績+34.7%に対して日経平均は7.1%上昇で上昇率0.20倍と急ブレーキがかかった。企業業績の改善に対して株価は完全に出遅れてしまった。

 このデータを突きつけられてもなお、「株価は為替の円安、企業業績の改善に比例して上昇する」という〃信仰〃を、かたくなに守り続ける自信はおありだろうか? 日経平均株価はすでに、円安とも企業業績改善とも連動しなくなった。2015年の株価を予測する時、これを大前提に考える必要がある。

 ■「政策に売りなし」という言葉は不滅

 おそらく、2015年の株価見通しでよく聞かれるフレーズは、次のようなものだろう。

 「1月22日か3月5日のECB理事会で『非伝統的手法』の量的緩和政策が採用されるとユーロ安円高になり、日本株は一時的に軟調になるかもしれない。しかし4月28~29日か6月16~17日のFOMCで政策金利の利上げが決まればドル高円安になる。だから2015年の日本株はおおむね堅調に推移する」

 現状では、ヨーロッパのデフレ懸念を払拭したいECBの追加緩和決定、アメリカの景気過熱を抑えたいFOMCの利上げ決定はかなり確実性が高いシナリオなので、コメンテーターはこう言っておけば無難だ。しかしこれは「為替の円高=株価の下落、為替の円安=株価の上昇」という大前提に基づいているので、ちょっと疑問符を付けざるをえない。

 いや、「為替の円高=株価の下落」は、短期的にはまだ有効かもしれない。というのは、日経平均を「ゲリラ急落」させて投資家を翻弄する先物売り勢力は、為替が円高に振れたらそれを格好の口実にするからだ。しかし「為替の円安=株価の上昇」は、すでに過去のものだと考えたほうがいい。それはドル円が14.31円、円安に振れても日経平均は7.1%しか上昇しなかった2014年のデータが証明している。輸入物価上昇のような円安デメリットが株価に悪影響を及ぼしはじめたというより、リーマンショック後の行きすぎた円高の修正が完了して、日本経済がノーマルな状態に復帰したためだと考えたい。全体的に見れば、現状の為替の円安はまだデメリットよりもメリットのほうが大きいからだ。

 そして「企業業績の改善=株価の上昇」も過去のものになった。「内需型産業の業績改善は出遅れていても、輸出型産業の業績は円安を背景に好調を持続できそうなので、株価は堅調に推移する」という見通しも鵜呑みにしないほうがいい。現状でも、輸出型産業の一番星で業績も非常に好調なトヨタ<7203>の株価は2007年1月のピークを回復できていない。おそらく2015年は、「決算で業績が過去最高を更新した銘柄でも株価はそれほど反応せず、逆に業績が悪化した銘柄は売られて株価がボロボロ下がる」という年になるのではないだろうか。

 為替の円安は頼りにならない。企業業績の改善も頼りにならない。では、2015年の株価を見通す時、頼りになるのはいったい何なのだろうか? それは日銀の金融政策も含めた広い意味での「政策」だろう。「政策に売りなし」という言葉は、2015年も不滅の光を放ち続けそうだ。

 第三次安倍内閣のメインテーマ「地方創生」に基づき、1月に成立するとみられる補正予算案の経済対策は地方経済に重点配分される。4月には統一地方選挙がある。2014年に東京市場で脚光を浴びたテーマの「燃料電池車」も「子育て支援」も「格安ケータイ」も訪日外国人の「インバウンド消費」も、証券界が拡充を期待する「NISA」も、みんな政策に支えられている。

 2015年のカレンダーを見ると、2月に2020年東京五輪の基本計画が策定され、4月には「子ども・子育て支援新制度」が始まる。5月には総務省がスマホ、携帯電話のSIMロック解除を義務づける。10月には国勢調査が実施され、納税と社会保障の共通番号「マイナンバー」の国民への通知が始まる。消費税の10%への再増税は2017年4月まで延期されたが、法人税や贈与税、自動車税などをめぐる2015年度の税制改正はマーケットでは注目の的で、訪日外国人のための規制緩和もさらに進みそうだ。

 願わくばそれに、富裕層ではなく標準的なサラリーマン家庭の個人消費をテコ入れできる住宅ローン減税、子育て減税、介護減税の拡大や、「クールジャパン」以外の海外との文化交流をサポートする文化振興策も加えてほしいところ。英語だけでなく中国語でもフランス語でも好きな外国語を実質無料で学べるようにしたら、訪日外国人対応にも文化の発信にも東京五輪にも効くはず。「田舎の学問より京の昼寝」で、NYやパリに20代の日本人は無料の宿泊施設を設けるのもいい。

 ■日経平均年間変動レンジは15000~20000円

 2015年の株価を押し上げる最大の要素は「政策」で、それによる日経平均の押し上げ効果はトータルで2000~2500円はあるとみる。それを2014年の最高値や終値に当てはめると20000円の大台にタッチしそうな水準。為替や企業業績による押し上げ効果が期待できなくなった分、20000円よりも上値を追うのはよほどのことがない限り難しいのではないだろうか。原油安の悪影響、利上げを控え史上最高値圏にあるNYダウの高所恐怖、ヨーロッパのリセッションの長期化、債務危機やテロや疫病のリスクなど、外部要因も考えてみれば景気のいい上昇に期待するよりは、ディフェンシブに身構えたくなる。

 一方、下値のメドは東京株式市場の「基礎体力」を示すサポートラインに着目したい。割り込めばすぐに反発してV字回復するのがサポートライン。過去の日経平均のチャートを眺めると、2012年11月15日のアベノミクス相場開始まではほぼ8000円、一時的な急騰期の「アベノミクスの青春」を経て「第1次黒田日銀サプライズ緩和」の2013年4月から同年8月までは13000円、2013年9月から2014年5月までは14000円、2014年6月以降は15000円が下値のサポートラインになっていたことが見て取れる。その8000円から14000円への押し上げは2013年の年間騰落+5896円、14000円から15000円への押し上げは2014年の年間騰落+1159円にほぼ符合している。

 このサポートラインは、「第2次黒田日銀サプライズ緩和」直後の2014年11月から17000円に押し上げられたように見えるが、まだ2ヵ月しかたっていないので、本当にそうなったのかどうかはこの先、もう少し値動きを観察してみないとわからない。そのため慎重に、現状はサポートラインが15000円に位置する状況がまだ続いているとみなす。14000円が9ヵ月続いたので、仮に同じ期間続くとすると2015年の前半は15000円が継続することになる。この15000円を2015年の下値のメドとみる。

 ということで、2015年の年間を通じた日経平均の変動レンジは15000~20000円とみる。日経平均が25000円とか30000円という水準は、抵抗勢力を排除して「成長戦略」がガンガン発動され、その成果がはっきり目に見えた時はじめて、タッチできるのだろう。(編集担当:寺尾淳)