トヨタが世界初の量販型燃料電池車「MIRAI」を発表する前日の昨年11月17日、ホンダは東京・青山の本社で「2015年に新型FCVを市販する」と伊東孝紳社長が発表した。
トヨタ「MIRAI」とホンダ「FCV」の違いは、どこにあるのだろう。決定的な違いは燃料電池本体(スタック)の搭載場所だ。MIRAIは前席床下に搭載するのに対し、ホンダFCVは普通のクルマのエンジンの搭載場所、つまりフロントボンネット下に置く。これがどういう意味を持つか。2台のクルマの決定的な違いにつながる。
まずクルマの基本骨格が大きく異なる。MIRAIは、ほぼ電気自動車などが使う手法に近く、電池の役目を果たすスタック(実際には発電を担う)などを床下に配置した。したがって普通のエンジンを搭載しているクルマと大きく違う燃料電池車専用のボディ骨格が必要となる。
一方、ホンダFCVは普通のクルマのエンジン搭載位置と同じボンネット下にスタックや送風ファン、インバーターなど主要システム全体を搭載する。ユニット全体としてみると、普通のエンジンと変速機を組み合わせたかのような形状だ。事実、サイズ・重量は3.5リッターV6エンジンと同等だという。このコンセプトなら、普通のガソリンエンジン車のボディを多少改造すれば、燃料電池ユニットを搭載可能だ。専用のボディは必要なく、これまでのセダンやミニバンなどにも搭載でき、コスト面で圧倒的に有利だ。
ただ「ホンダの方が賢い選択か?」といえば、そうとも言えない。MIRAIのようにスタックを床下に搭載することにより、これまでのクルマと違うデザインやシルエットのクルマを作ることが可能となる。実際、ミライのフロントデザインは、ガソリン車だと難しい形状だ。また、重量のあるスタックを床下の低い位置に搭載することで重心を下げられる。重心高が下がればスポーティなハンドリングにつながる。
ホンダFCVは重量物をすべてフロントに搭載するこれまでのクルマと同じ。コスト的に有利で実用性を重視したのがホンダFCVで、コストが掛かっても燃料電池車としての理想を追求したのがミライということか。
従来型のホンダ燃料電池車である「FCXクラリティ」は、スタックを床下に搭載するMIRAIと同じレイアウトだった。ホンダは量販化を見据えてスタックの搭載場所を変えた。これはスタックを小型化した技術進化の結果、実現できたレイアウトだ。
ホンダFCVのスペックは公表されていない。コンセプトカーを見た印象は「かなり大きい」。サイズ感は全長×全幅4800×1850mm程度か。周辺からは、「カッコいいじゃない」という意見が聞こえてくる。(編集担当:吉田恒)