2011年に行なわれた地上デジタル放送への完全移行後、薄型テレビの国内出荷台数は2012年10月の時点で15カ月連続で前年実績を下回っている。
電子情報技術産業協会(JEITA)の発表によると、地上デジタル放送完全移行後の反動減が続いており、薄型テレビの国内出荷台数は、12年8月で前年同月比68・5%減の39万7千台、9月は62.5%減の42万7千台、10月は47.6%減の39万1,000台となっている。画面サイズ別でみると、29型以下のサイズがもっとも落ち込みがひどく、10月度で61.9%減となっている。
地デジ移行の駆け込み需要である程度の落ち込みは予想されていたものの、予想以上の厳しい落ち込みとなっているのは言うまでもない。メーカー側も、3Dテレビや、フルハイビジョン映像の約4倍の解像度「4K」に対応した液晶テレビなどの次世代技術を盛り込んだ機種を投入するものの、現状では市場を活気づけるような気配はない。この原因の一つに「消費者のテレビ離れ」を挙げる専門家もいるが、果たして理由はそれだけだろうか。
3Dや4Kといった技術は確かに素晴らしいものの、コンテンツが圧倒的に少なすぎる。日常のテレビ放送やメディアにおいて、3Dや4Kの番組はほとんど放映されていない。今後、HDに変わって4Kの映像コンテンツが増えていくという見通しを持つ専門家もいるが、消費者が本当にそれを求めているのかは疑問だ。一般的な視聴者が気軽にみている、バラエティイ番組やドラマやクイズ、ニュース番組や料理番組などに、そんな臨場感溢れる高画質が必要だとは思えない。4K撮影システムで撮影された映像は、ダウンコンバートされても従来のHD映像より優れた画質を得られるのだが、それならそれで充分と思われるのではないだろうか。
ところが、メーカーはそうとは考えていないらしい。各社揃って、4K市場にさらに力を注ぎ、活路を見出そうとしているのだ。12年11月、ソニー<6758>が84型の液晶テレビを168万円で発売した。東芝<6502>も来春、日本国内のみならず、海外での4Kテレビの販売を始める。さらにシャープ<6753>は、薄型テレビの最高級ブランド「ICC ピュリオス」を立ち上げ、13年2月には60型の新製品を262万5000円で販売する予定をしている。
一般消費者層には高額過ぎる商品だが、地デジ需要の反動減は今後もしばらく続くことが必至な中、しかも海外市場での韓国企業の台頭、さらにはソニーとパナソニック<6752>が共同開発に乗りだした有機ELも、期待を寄せられながらも、未だ商品化のメドが立たないような状況下で、まずは現状可能な技術力で富裕層のニッチなニーズにアピールしようとすることは、致し方ない選択なのかもしれない。しかしながら、「ガラパゴス化」とも揶揄されるように、日本メーカーの製品が世界の消費者のニーズからどんどん乖離してしまうのではないかという懸念も拭えない。
これからのテレビに求められるものは、果たして、これ以上の高画質なのだろうか。それよりも、例えば米国を中心に関心の高まりを見せている「ソーシャルテレビ」のように、機能や性能ではなく、これまでのテレビ視聴の概念を飛び越えるような、新しいコンテンツとしての楽しみ方を消費者に提供することの方が重要なのではないだろうか。
2013年は4Kテレビ元年の年となり、国内家電メーカーの救世主となりえるのか。注目の一年となりそうだ。(編集担当:藤原伊織)