2012年11月21日。年末商戦に滑り込むかたちで、阪急百貨店・阪急うめだ本店がグランドオープンしたことにより、ここ数年、大阪で繰り広げられている、業界史上最大ともいわれる百貨店戦争が最終局面を迎えようとしている。
そもそも大阪の百貨店戦争の始まりは、ヨドバシカメラや三越(現・三越伊勢丹)がJR大阪駅周辺に進出してくることが明らかになった04年まで遡る。JR大阪駅のある梅田界隈は、阪急百貨店グループのお膝元。阪急電鉄のターミナル駅もあり、いわば阪急の本丸のような場所だ。そんなところに東京勢が乗り込んでくるのだから、阪急サイドとすれば穏やかでいられるはずがない。阪急百貨店うめだ本店は7年という歳月をかけて全面的な改装工事を行い、全力で東京勢を迎え撃つことを決定した。
そして、11年5月。JR大阪駅ビルにJR大阪三越伊勢丹がオープンした。阪急うめだ本店の全面開業に先駆けること、一年半。JR大阪駅に直結する伊勢丹は、話題性も手伝って阪急に大きく水をあけたかのように思われたが、実際はそうではなかった。
JR大阪三越伊勢丹の、初年度当初の売り上げ目標は550億円。ところが、実際の売上高は開業一年間で、そのおよそ6割にしか満たない334億円に止まった。さらに今期も、2期連続で大幅赤字となる見通しで、文字通りの大苦戦を強いられているのだ。
三越伊勢丹ホールディングスでは、13年3月までに大阪三越伊勢丹店の一番の課題である婦人向けファッションの品揃えや売場構成の見直しを中心とした再生プランを固め、16年3月期までに黒字化させる方針を打ち出して挽回を図る。
一方、阪急うめだ本店の方は、建て替え工事中の11年度の売上高は1244億円にとどまったものの、増床後の初年度売上高は2130億円を計画しており、これが計画通りに実現すれば、日本一の売上高を誇る伊勢丹新宿本店に迫ることになる。しかも、それを裏付けるかのように、リニューアル後の阪急うめだ本店の出足はすこぶる好調で、全館開業5日間の売上高は前年同期比1.8倍に達したという。
でもなぜ、こうも明暗が分かれてしまったのだろうか。伊勢丹が苦戦している原因の一つとしては、大阪で圧倒的な力をもつ高島屋が、阪急と共同戦線をはって迎え撃ったというところも大きいだろう。高島屋はかつて、伊勢丹の本拠地である新宿に進出した際、伊勢丹本店の圧力で高級ファッションの品揃えができなかったという大きな恨みがある。
今度はそれと同じことを、阪急と高島屋が伊勢丹に対して行なったのだ。お陰で今度は、大阪伊勢丹がファッション関係の取引先に圧力を掛けられてしまい、満足な品揃えをすることができなくなってしまったのだ。
また、阪急が店舗こそ全面改装したものの、その方針は逆に「百貨店の原点に立ち戻る」としたことも大きいのではないだろうか。阪急が目指したのは、伊勢丹などにみられるような、いわゆる「東京流のスマートな売り方」の店ではない。かつての百貨店にみられたような、百貨店に赴いてぶらぶらすること自体が楽しみであり、驚きや発見、学びといった場。これを阪急では「劇場型百貨店」と名付け、その実現を目指しているのだ。
確かに、巷には大型専門店やショッピングセンターなどの新しい商業施設が増えたり、通販市場の拡大なども相まって、「百貨店に行く意味」そのものが薄れているようにも思う。
わざわざ百貨店に出向かなくても、インターネットを繋げば、茶の間に居ながらにして、百貨店に並ぶ以上の豊富な商品を、しかもディスカウントされた価格で、クリック一つで手に入れることが出来るのだ。
百貨店が今後も生き残るためには、同業者同士の勢力争いだけでなく、これらの業態とのせめぎ合いになってくるのは必至だ。つまり「買う、買わない」以前に、店舗に足を運ばせられるかどうかが重要なカギになってくる。そういう意味でも「百貨店の原点に立ち戻る」ことで阪急百貨店が計画通りの業績を上げられるかどうかは、対大阪伊勢丹だけでなく、今後の百貨店の未来を占う重要な指標になるだろう。(編集担当:藤原伊織)