2015年12月の発足に向け、いよいよ秒読み段階に入ったASEAN経済共同体(AEC)。現在のところ、EUのような通貨統合の動きこそないものの、域内の関税撤廃や幹線道路などのインフラ整備など、市場統合に向けたも準備は着々と進んでいるようだ。
タイやインドネシアなど東南アジアの10カ国が加盟する人口6億人の巨大市場は、5億人の欧州連合(EU)の市場規模を大きく上回る。当然、世界の経済に及ぼす影響は計り知れない。日本も、とくに自動車や製造業などの企業の生産や販売戦略は大きな転換期を迎えることになるだろう。
そんな中、ASEAN統合をにらんで、日本企業のASEAN市場への進出も相次いでいる。例えば14年7月には、KDDI<9433>と住友商事<8053>がミャンマー連邦共和国の通信事業への参入を発表している。両社はミャンマーの独占的な国営通信事業者MPT社との共同事業運営契約を締結し、10年間で約2000億円の設備投資を実施する。現在、ミャンマーの携帯普及率は10%強と見られているが、通信インフラや電力インフラが整えば爆発的な市場拡大も見込まれる。
また、バンダイナムコ<7832>は、アジアでの事業拡大・強化に向けてインドネシアに現地法人「PT BANDAI NAMCO INDONESIA」を設立し、14年10月より営業を開始している。ここを拠点とし、インドネシアでの製造・販売による同国での玩具事業拡大を図るだけでなく、ASEAN輸出事業を積極展開していく方針だ。
また、消費税引き上げ影響などで国内市場が不安定な住宅業界でも、新たな市場を求め、日本の住宅会社のASEAN市場への進出が活発になっている。対象地域としては、これまでタイやベトナムが中心だったが、今年に入って大手のパナホーム<1924>が、4月1日付でシンガポールに同社100%出資による新会社「パナホーム アジアパシフィック」を設立することを発表、マレーシアを除くASEAN地域での住宅事業拡大に本格的に乗り出したことで大きな注目を集めている。
シンガポールはASEAN各国から概ね2時間程度で移動可能な好立地。ここに統括会社を置くことで、情報収集や営業活動を行うとともに、地元ディベロッパーとSPC(特別目的会社)を設置し、案件毎に建設体制を組織する等、地域主導型の受注・建設体制を構築し、ASEAN市場を一気に掌握するのがパナホームの狙いだ。すでに商談として進んでいるインドネシア、ベトナム、カンボジアでのスマートタウン開発案件を手始めに、対象地域での住宅事業の展開を加速させ、新会社では2018年度の売上高100億円を目指すという。
AECだけでなく、今後、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)や環太平洋パートナーシップ(TPP)協定なども具体的に動き出せば、日本企業もよりグローバルな視点での海外展開が求められてくるだろう。単純なコスト削減や効率性だけを重視した経営戦略ではなく、ASEAN各国の消費者の多様なニーズを的確に把握し、タイムリーに投入できる現地体制の構築が必須になる。もちろん、日本企業同士だけでなく、韓国や中国、欧米諸国もASEAN市場の獲得に向けて動き出している。戦いはもう始まっているのだ。(編集担当:藤原伊織)