ギリシャが深刻な経済難に陥っている。債務不履行(デフォルト)の宣言も噂される中、ユーロ離脱論も現実味を帯びてきた。事と次第によっては、世界市場に大きな混乱を招くことも予測される。一国家の財政危機が諸外国の経済に与える影響とは何か。そして現在のギリシャの苦境は、いかなる歴史的背景から生じてきたのか。
世界の多くの国は、税収のみで国家を運営できるわけではない。国債を発行し、金融市場からも広く資金を集め、ここからあらゆる行政サービスや公共事業に出資していく。したがって国が借金をするのは至って普通のことではあるが、過剰な公共投資や社会福祉への予算投入など、あまりにもバランスを欠いた財政運営をすれば、借金返済が不能となってデフォルトと呼ばれる事態に陥る可能性が出てくる。一般企業でいうところの倒産である。
それほどの深刻な財政赤字となれば、その国の国債は次々と売りに出され、国債の価格は下落する。国債を保有する国内外の金融機関の経営も危うくなる。国は新たな国債発行による資金調達も困難となり、本当にデフォルトに至る恐れも増してくる。国家としての信用を失い、海外の投資家も軒並み資金を引き揚げていく。そして世界の為替相場を巻き込み、株安が連鎖的に広がり、国際金融市場にまで大きな混乱を招くのだ。
ギリシャの場合、第二次世界大戦の前後から続いてきた政治不安が、現在の財政危機の背景にある。欧州内で東側に対する西側の最先端に位置し、黒海、地中海を通じてロシアにも近いという微妙な地理的条件の中、中世から近現代に至るまで常に列強国の領土や覇権争いに巻き込まれ、国内でも右派と左派が政権を奪い合うという不安定な情勢にあった。政権交代が起こる度に政府は、国民の支持を得るべく、社会保障や公務員雇用枠を拡大し、「大きな政府」としての支出を増やしていった。無料または格安の医療費、手厚い年金制度。就業人口の4人に1人が公務員という実情。社会保障給付費と人件費が利払い後の国家歳出の7割を占めていたという。ギリシャの財政難は必至であったが、2009年の政権交代時まで国家の赤字が政府の手で隠蔽されてきた。
10年1月、ようやくギリシャの債務危機が発覚。国債が暴落し、世界の国々の平均株価も下落した。欧州各国はギリシャを救済するため大規模な金融支援を決定したが、その条件として緊縮政策の実施をギリシャに求めた。公務員のリストラや給与カット、年金や社会保障費の減額、増税などである。その結果、景気は一段と悪化し、失業率も上昇、国内では大きなデモやストライキが頻発している。これといった基幹産業も存在しないギリシャは、経済の成長戦略を立てるのが難しい。生活が厳しくなるばかりで国力を回復できない政府に国民の反発はますます強まり、今年1月の総選挙では、緊縮財政放棄を掲げた急進左派連合が勝利する結果となった。
新政権はEUに対し、これまでの支援を継続しつつ緊縮政策見直しを迫るという無理難題を突き付け、EU諸国との対立を深めている格好だ。EUによるギリシャ支援策が破綻すれば、ギリシャのデフォルト、ひいてはユーロ離脱という危険性も高まってくる。今のところ、ギリシャのデフォルト準備論を同国首脳府は否定しているが、状況は予断を許さない。
しかし今回のギリシャ危機は、日本にとっても対岸の火事ではない。日本の抱える借金はGDP比で189パーセント(09年時点)、米国・ドイツ・フランス等の80パーセント前後を大きく上回る。当のギリシャでさえ115パーセントだ。ギリシャ国債の保有者は約7割が海外投資家であるのに対し、日本の国債はほとんどが国内の個人金融資産で買い支えられているという事情から、ギリシャのように直ちに危機に陥るような事態は考えにくい。だがいずれ高齢化で国民の金融資産が減少すれば、国内資産だけで借金を賄えない日も来ないとは限らない。ギリシャ救援も急務の課題だが、我が国の財政再建についても私たちは真剣に考えなくてはならない。(編集担当:久保田雄城)