談話に「総理としての判断」を評価したい

2015年08月15日 08:32

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安倍晋三総理が韓国・中国はじめ世界に向けて「できるだけ多くの国民と共有できる談話にしたい」とまとめあげた戦後70周年の総理談話。総理自ら14日の記者会見で世界に発信した。

 安倍晋三総理が韓国・中国はじめ世界に向けて「できるだけ多くの国民と共有できる談話にしたい」とまとめあげた戦後70周年の総理談話。総理自ら14日の記者会見で世界に発信した。

 20分に及ぶ談話の中でのキーワードは「何の罪もない人々に計り知れない損害と苦痛を、我が国が与えた事実。一人ひとりに、それぞれの人生があり、夢があり、愛する家族があった。この当然の事実をかみしめる時、今なお、言葉を失い、ただただ、断腸の念を禁じ得ません」という直接的な主語、述語の表記部分に先の戦争に対する歴史認識と反省の部分がすべて集約されているといえよう。

 また、日本の立場については「事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない。植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない」と示した。

 あわせて「我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。その思いを実際の行動で示すため、インドネシア、フィリピンはじめ東南アジアの国々、台湾、韓国、中国など、隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻み、戦後一貫して、その平和と繁栄のために力を尽くしてきました。こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎない」とした。

 談話をどう読み解くかは、受け取り側の視点で別の意味を持つものになることもあるだろうが、筆者は3点について評価をしたい。

 ひとつは、個人の歴史観ではなく、総理としての歴史観で談話をまとめたこと、2つ目は全体として「先の大戦への深い悔悟の念」が伝わり易い表現になっていたこと、3つ目は不戦の誓いとともに、日本の立ち位置を明確にし「暴力の温床ともなる貧困に立ち向かい、世界のあらゆる人々に、医療と教育、自立の機会を提供するため、一層力を尽くしていく。21世紀を女性の人権が傷つけられることのない世紀とするため、世界をリードしていく」と具体的取り組みの柱を入れたこと。

 過去の歴史認識について安倍総理は「日本は外交的、経済的な行き詰まりを『力の行使によって解決しようと試みた』。『進むべき針路を誤り』、戦争への道を進んで行った」と、日本の行動を客観視した捉え方を盛り込んだ。

 また「先の大戦への深い悔悟の念」を用いるなど、安倍総理のこれまでの国会答弁からは予想できなかった言葉が用いられた。

 安倍総理は日本会議国会議員懇談会の役員もしているが、日本会議が今月6日に発表した戦後70年の見解では「米英等による経済封鎖に抗する『自衛戦争』としてわが国は戦った」とある。この視点からはさきの総理見解は生まれてこない。自衛戦争との視点では自衛のために武力行使したのだから「悔悟」の念は出てこない。安倍総理は個人としての思いではなく、総理としての判断をされたと受け止めるべきだろう。

 民主党の岡田克也代表は総理の談話内容を聞いての記者団の質問に「今までの政治家・安倍晋三の歴史観とは明らかに異なるものだ」と語った。そうだと思う。岡田代表は「総理が大きく考え方を変えたということであれば、内外の議論や指摘が影響を与えたということではないか」と指摘した。その判断を行うだけの総理としての判断力があったと評するほかない。

 また安倍総理は1000万人の戦死者を出した第一次世界大戦により「人々は『平和』を強く願い、国際連盟を創設し、不戦条約を生み出した。戦争自体を違法化する、新たな国際社会の潮流が生まれた」としたうえで、日本も足並みを揃えたのに、世界恐慌により「欧米諸国が経済のブロック化を進めると、日本経済は大きな打撃を受けた。日本は外交的、経済的な行き詰まりを『力の行使によって解決しようと試みた』。国内の政治システムは、その歯止めたりえなかった」と、武力による解決とそれを抑制する政治システムが日本にできていなかったことを認めた。

 安倍総理は「日本が、国際社会が壮絶な犠牲の上に築こうとした『新しい国際秩序』への『挑戦者』となっていった。『進むべき針路を誤り』、戦争への道を進んで行った」と問題解決のために誤った進路をとったとした。
 
 そのうえで「国内外に斃れたすべての人々の命の前に、深く頭を垂れ、痛惜の念を表すとともに、永劫の哀悼の誠を捧げます」と語った。

 また「戦場の陰には深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいたことも忘れてはなりません」と言葉としては従軍慰安婦問題を表現することはしなかったが、女性が名誉と尊厳を傷つけられたことに言及し「何の罪もない人々に、計り知れない損害と苦痛を我が国が与えた事実。歴史とは実に取り返しのつかない、苛烈なもの。一人ひとりに、それぞれの人生があり、夢があり、愛する家族があった。この当然の事実をかみしめる時、今なお、言葉を失い、ただただ、断腸の念を禁じ得ません」と悔悟の念を示した。

 読者のみなさんはどう受け止められるだろうか。筆者は、総理談話を聴きながら中国・韓国・インドネシアなどなど、日本の行為によってこころに消すことのできない深い傷を負われたすべての方にお詫びしながら、談話に耳を傾けた20分だった。今回の総理談話はひとりの国民として素直に共有させて頂きたいと思っている。(編集担当:森高龍二)