富士重工業が陸上自衛隊向け新多用途ヘリコプターの開発事業を受注

2015年09月05日 20:31

Subaru UH-X

陸上自衛隊向けUH-Xの完成イメージ

 富士重工業は9月2日、防衛省との間で陸上自衛隊向け新多用途ヘリコプター「UH-X開発プロジェクト立ち上げ事業」の試作請負契約を締結した。

 富士重は、米国ベル・ヘリコプター・テキストロン社と、高い信頼性と汎用性を持ち捜索救難活動などで活用されている412シリーズの最新型ヘリコプターである412EPIの発展型機を「富士ベル412プラス(仮称)」として共同開発し、この機体を共通プラットフォームとして陸上自衛隊向けUH-Xを開発する計画だ。

 民間機として開発する富士ベル412プラスは、412EPIのドライラン能力(メイン・トランスミッション内の潤滑油が抜けた状態で30分間の飛行継続が可能な能力)を向上させるとともに、トランスミッションの出力向上、機体の耐久性の改善など、性能と安全性を向上させた機体。自社で開発した金属表面加工技術や、民間機大量生産などで培った高効率生産技術など、富士重独自の技術を最大限に投入する計画だという。販売は、ベル社のネットワークを最大限に活用し、協働で世界に向けて販売する。

 富士重は、ベル社との55年にわたるパートナーシップを築いてきた実績があり、同社・航空宇宙カンパニー(栃木県宇都宮市)にUH-Xと富士ベル412プラスの製造ラインとその維持整備体制を建設して、共同でヘリコプター事業を展開していく。同社の航空宇宙カンパニーは、栃木県宇都宮市と愛知県半田市に拠点を置き、これまで多種多様な航空機の開発・生産に携わってきた。

 この航空宇宙カンパニーは、民生用旅客機で、ボーイング「767」「777」などの国際共同開発に参画してきた実績があり、最新鋭中型機「787」では主要な部位である中央翼の開発・製造、主脚格納部との結合を担当している。 富士重の固有の技術を活かした無人機の分野でも評価され、防衛省向けに「無人機研究システム」や「無人偵察機システム」などを開発している。宇宙航空研究開発機構(JAXA)向けには「無人機による超音速機」の研究もすすめている。

 これまで同社は、戦後初の国内開発生産ジェット機である中等練習機「T-1」や、海自初等練習機「T-5」、空自初等練習機「T-7」(プロペラ機)、空自飛行点検機/救難捜索機「U-125/U-125A」(ジェット機)など、数々の機体を主契約会社として防衛省に納入してきた。

 一方、回転翼機でも、「UH-1J」など多用途ヘリコプターのほか、国内唯一の戦闘ヘリコプターメーカーとして、「AH-64D」をライセンス生産している。航空宇宙カンパニーは、これまでに培ってきた独創的で先進的な技術が世界的に高く評価されつつある。

 富士重と防衛省は、戦闘ヘリコプター「AH64D」(通称アパッチ・ガーディアン)の発注を巡って裁判が継続中だが、戦後一貫して続くその蜜月関係は維持されているようだ。

 戦闘ヘリ「AH64D」問題は、防衛省が「AH64D」62機の導入を決め、生産を行なう富士重が米ボーイングにライセンス料など350億円の支払いを終えていた。しかし、防衛省は10機を調達しただけで発注を打ち切った。富士重は防衛省に初期費用の支払いを求めてきたが、同省は応じず、2010年1月に国を相手に費用の返還訴訟に踏み切っていた。

この裁判で、東京地裁は昨年1月の一審判決で富士重工の請求を棄却した。が、東京高裁は今年1月、請求を棄却した地裁の一審判決を変更し、逆転判決を言い渡し、国に約350憶円の支払いを命じた。防衛省は、判決内容を精査し、関係機関と調整の上、対応を検討するとしている。(編集担当:吉田恒)