アメリカの自動車市場は安いガソリン価格を背景に大型ピックアップ車や大型のSUVの販売が好調だ。その影響でHVのプリウスは大幅減。写真は増産を発表した4.6リッターV型6気筒エンジン搭載のトヨタ・タンドラ
米・調査会社「オートデータ」がまとめたこの8月の米自動車販売は季節調整済みの実質で前年同月比3.3%増加し、8月としては2003年以来の高い水準となった。ピックアップトラックやSUVの販売が引き続き堅調だった。
メーカー別では大手6社が軒並み予想を上回った。このうち小型車やハイブリッド車が主流のトヨタ、ホンダは苦戦、日産、ゼネラル・モーターズ(GM)も販売は減少したものの、予想されたほど落ち込まなかった。株式市場の乱高下が自動車販売に与えた影響は、それほど大きくはなかったようだ。
市場は好調といえるが、車種によって明暗も大きく分かれた。ピックアップトラックやSUVなど「小型トラック」に分類される大型車が8.6%増えたが、日本メーカーが得意な小型車が中心の「乗用車」は10.3%減った。
米国内の雇用や可処分所得、燃料価格といった経済基調はすべて良好であり、これらが相まって堅調な新車販売が持続したと指摘するアナリストが多い。GMの販売台数は0.7%減の27万0480台、フォードは5.4%増の23万4237台となった。3位のトヨタは8.8%減の22万4381台。フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)はJEEPブランドが健闘して2%の増加。ホンダは7%減、日産は1%減だった。
ロイターなどの報道をみると、今年に入ってから米国ではガソリン安を追い風に大型車の販売が好調だという。米国内の自動車販売を大型SUVやピックアップが牽引する市場のトレンドを受けて、日本メーカーも米国市場向けにピックアップ&SUVなどの大排気量車の供給を拡大する。トヨタ自動車は2016年、テキサス工場のピックアップ生産台数を2割以上増やし、ホンダは中型ピックアップの新型モデルを投入する。各社は利幅が大きい大型車の供給を増やし収益拡大を目指す。
具体的には、トヨタが3.5リッターV6エンジン搭載のピックアップ「タコマ」と4.6リッターV6搭載のピックアップ「タンドラ」を増産する。来年の夏までに生産するテキサス工場で工員約280人を新規採用し、工場の稼働日を週5日から6日に増やす方針だ。2600万ドル(約30億円)を投じて生産設備も増強する。これらの取り組みにより、同工場の生産規模を2016年に30万台近くまで増やす。メキシコのバハカリフォルニア工場を含む北米全体で2016年のピックアップ生産台数は前年比20%増の38万台程度とする。
ホンダは2016年をめどに中型ピックアップ「リッジライン」の新型車を発売する。同モデルは2014年秋に生産を終えたが、商品性を高めた新型車を開発し現地生産する予定だ。日産も販売好調なSUV「ローグ(日本名:エクストレイル)」をテネシー州スマーナ工場に加え九州工場でも年間10万台規模で生産し、2016年初頭から北米へ輸出する。富士重工業もSUV「フォレスター」などを増産する。
また、米エネルギー情報局(EIA)と全米自動車協会(AAA)の別々の予想によると、9月に入って全米のガソリン小売価格の平均は1ガロン2.44ドル(1リッター約0.65ドル/約78円)と、この時期としては2004年以来の安値となるもようだ。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)の原油相場は今年に入ってから13%下げ、7日時点で1バレル46.17ドル。この時期としては10年ぶりの安値だ。シェールガスのブームにより原油生産が40年ぶり高水準近くまで増加し、精製向け原油があふれており、ガソリン小売価格下落に拍車をかけた。イランの輸出により世界の供給過剰が一段と進むという市場観測が優勢で、原油相場に押し下げている。
米自動車メーカーなどは、このガソリン価格の下落と17日に発表した米連邦準備理事会(FRB)の米連邦公開市場委員会(FOMC)で金利据え置きを決めたため、安い自動車ローンが継続すると見て大型車の販売に期待を寄せている。(編集担当:吉田恒)