年間19万人の命を救え! 心筋梗塞の死亡リスクを減らす最新技術

2016年03月05日 20:46

しんのすけくん人形

住友理工が開発した心肺蘇生法(心臓マッサージ)訓練センサーシステム「しんのすけくん」

 命の危機は、いつ訪れるか分からない。室内でも大きな温度差が出てしまう季節の変わり目はとくに、血圧が急激に上下することで心筋梗塞などのリスクが増加してしまうから注意が必要だ。

 厚生労働省が公表している「平成25年度 国民医療費の概況」をみると、虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)による年間医療費は7503億円。また「人口動態統計の概況」では、平成26年1年間の死因別死亡総数のうち、急性心筋梗塞が3万8991人、その他の虚血性心疾患が3万4894人、心不全が7万1,656人となっており、高血圧性を除く心疾患全体では19万6926人となることが分かった。これは、日本人の死因別死亡数全体の15.5パーセントにあたり、一位のガンに次ぐ死亡数である。

 国立循環器病研究センターの調査によると、病院受診前に突然亡くなってしまう病気の最も多い原因が急性心筋梗塞症で、急性心筋梗塞患者のおよそ14%は病院に搬送される前に心停止してしまうという。その理由と考えられるのは、発作直後に「心室細動」と呼ばれる危険な不整脈が生じてしまうことがあるからだ。「心室細動」が起こると、心臓の機能が麻痺してしまい、意識がなくなるほか、心停止・呼吸停止となり、放置すると死に至る。これを回避できるのが電気ショック(除細動)だ。

 理想は、不整脈が生じる前に医療機関で適切な治療を受けることだが、必ずしもそんな恵まれた状況にあるとは限らない。出先の街中や駅などで、いきなり心筋梗塞に見舞われてしまうこともありうる。

 そこで最近では、駅や商業ビルに自動体外式除細動器、いわゆる「AED」が設置してあるのを見かけることが多くなった。AEDは、もしも突然、誰かが心停止を起こして倒れた場合、そこに居合わせた人たちが電気ショックを行い、心臓を正常なリズムに戻すための医療機器だ。心筋梗塞では、心停止から1分経過するごとに、生存率は約7~10%も低下するといわれ、血液の流れが止まって3~4分経つと、命は助かっても脳の回復が困難になると言われている。しかし、日本では救急車の到着まで平均約8.5分かかるといわれているため、ただ安静にして待っているだけでは手遅れになる場合もある。AEDの普及は、助けられる命を助けるために必要な社会の互助システムなのだ。日本では医療機器メーカー大手のオムロン<6645>が開発に力を入れている。

 しかし、そんなAEDがいつどこにでもあるとは限らない。むしろ、AEDが近くにないケースの方が圧倒的に多いだろう。とくに自宅にAEDを設置している家庭など皆無に等しい。いざというときに大切な家族の危機を守るためには、日ごろから、心臓マッサージなどの正しい蘇生法を訓練しておく必要がある。

 そこで注目されているのが、先日、住友理工<5191>が開発した心肺蘇生法(心臓マッサージ)訓練センサーシステム「しんのすけくん」だ。同システムは、自治医科大学麻酔科学・集中治療医学講座兼救急医学講座の南浩一郎講師の指導のもとで製品化が進められ、同社が開発した圧力検知センサ「スマートラバー(SR)センサ」を応用したシステムだ。人形と、モニター用のパソコンに簡単に取り付けることができ、心肺蘇生訓練において重要な要素である圧迫箇所、圧迫の深さ、最適なタイミングなどをセンサで検知し、これらをパソコン上にリアルタイムでわかりやすく表示する。圧迫位置の指示や、訓練結果を得点化して、レーダーチャートで評価するなど、訓練の習熟具合を視覚化できる。今年3月下旬の発売予定で、医療機関はもとより、学校や自治体、企業などで実施される一般市民向けの救急救命講習会での活用にも期待がかかる。

 心筋梗塞や心不全は決して他人事ではない。いつ自分の身に降りかかってくるかもしれず、また、そばにいる人が急に倒れる事もあるかもしれない。AEDや「しんのすけくん」の普及を応援したいものだ。(編集担当:藤原伊織)