「しびれ」という感覚は、正座の後など誰しもが経験したことのある感覚だが、しびれは糖尿病、末梢神経障害、末梢閉塞性動脈疾患などの病気のほか、ある種の抗がん剤による治療でも起こる。しかし、しびれに効く薬はまだ開発されてない。
京都大学の宗可奈子薬学研究科博士課程学生、中川貴之 医学部附属病院准教授、金子周司 薬学研究科教授らの共同研究グループは、マウスを使ってしびれのモデルを作成し、痛みの発生メカニズムを調べたところ、感覚神経にある痛みセンサ分子TRPA1が低酸素により過敏化し、しびれによる痛みを引き起こすことを明らかにしたという。
同研究グループはマウスの片側の後ろ足をタコ糸で縛ることで血流を止め、15分後から60分後にそのタコ糸を切ることで、後ろ足の血流を再開させて、しびれを模した。このように後ろ足を縛ったマウスでは、後ろ足の感覚がやがてなくなり、血流を再開させた直後には足の裏を激しく舐める行動が見られたという。このマウスの行動は、長時間の正座後に足の感覚がなくなってしまうと同時に、足にビリビリとした強い痛みが走る感覚によく似た現象と考えているとしている。
また、血流が一定時間止まった後に血流が再開すると、大量の活性酸素と呼ばれる体にダメージを与えたり、痛みを引き起こしたりする物質が発生することが知られている。研究グループは、感覚神経でこの活性酸素の存在を検知するセンサとして機能しているtransient receptor potential ankyrin 1(TRPA1)に着目した。
その結果、血流再開後に生じる足を舐めるような強いしびれは、活性酸素を捉えて消失させてしまう薬や、TRPA1阻害薬、またはTRPA1の遺伝子をなくすことにより弱まり、研究グループの仮説通り、血流再開後に発生した活性酸素が感覚神経のTRPA1を刺激することにより、痛みにも近い強いしびれ感が発生したものと考えているという。
今後は、TRPA1阻害薬が実際にこれらの症状を改善するかを調べる方針。また、人間で「しびれ」を起こす糖尿病、閉塞性動脈疾患、抗がん剤などの病態動物モデルを作ることで、さらに有効性の高い治療薬を見いだせる評価系を確立していく予定である。(編集担当:慶尾六郎)