京大らが難病ALSの病原蛋白質を分解する新たな仕組みを発見 新たな治療法開発に期待かかる

2016年01月20日 08:44

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は随意運動を司る神経がほぼ選択的に死滅し、全身の筋肉の萎縮と筋力低下を進行性にきたす神経難病である。発症より3~5 年程度で自ら呼吸することが不可能となり機械による人工呼吸を受けるか選択を迫られる。長らく原因は不明であったが、近年 ALSの脳や脊髄の病巣で蓄積するユビキチン陽性の異常物質の本体として TAR DNA binding protein-43 (TDP-43)という蛋白質が同定されたという。

 TDP-43は正常では核内で機能する RNA結合物質であるが、ALSでは細胞質へ移り、異常に切断された状態で蓄積しており、これらが様々な病的現象と関連すると考えられている。TDP-43はユビキチン化を受けていることから、ユビキチン-プロテアソーム分解系が関与していることが想定されるが、これまで TDP-43が細胞内で如何に分解されるのかについて、その仕組みは不明であった。今回、京都大学の漆谷真医学研究科准教授、内田司元同博士課程学生(現洛和会音羽病院神経内科医師)、伊東秀文和歌山県立医科大学教授らのグループは、その解明に取り組み、その仕組みの一端を明らかにできたと発表した。

 具体的には、質量解析の結果 cullin2 (CUL2)という蛋白質を同定した。CUL2 は癌関連蛋白質である von Hippel Lindauprotein (VHL)蛋白質と複合体を形成し、hypoxia inducible factor (HIF)1α 蛋白質をユビキチン化するユビキチンリガーゼであるが、今回同グループは基質結合蛋白質であるVHL が、正常構造より病的な異常構造に変化したTDP-43を強く認識し、さらにALSの病巣に存在する切断されたTDP-43にユビキチンを連結しプロテアソームでの分解を促進することをつきとめ、TDP-43分子の中で異常構造の目印となる配列(246 番グルタミン)を特定した。

 一方で、培養細胞ではVHL蛋白質のみが過剰になると、むしろTDP-43は異常に蓄積し、病的な凝集及び封入体形成を促進するというALS病態の悪化を再現し、さらに TDP-43の機能が低下するとVHL蛋白量が増加することが確認された。VHLは従来血管系細胞に存在することが知られていたが、ALS患者脊髄の観察によりVHLはオリゴデンドロサイトというグリア細胞内の細胞質に存在し、グリア細胞質封入体(GCI)と呼ばれる病的な封入体で異常なTDP-43 と共存しており、VHL/CUL2の機能不全が同細胞の凝集体形成の背景にあることが示唆された。以上の結果は、正常人が持つTDP-43蛋白質がALS発症に関係する異常構造体に転換した際に、それを認識し排除する仕組みが存在し、その一つがVHL/CUL2複合体であることを示しているとしている。

 またALSの発症や進行との関係が注目されているオリゴデンドロサイトの封入体形成の仕組みについてはこれまで全く知見がなく、VHとCUL2の調節の仕組みをさらに明らかにすることでALSの病態解明と新たな治療法開発が進むものと期待されるとしている。(編集担当:慶尾六郎)