増加する産学官連携事業。その魅力と、将来に向けた戦略

2016年01月16日 20:12

画・ビジネスシーンでの不快な会話は、後輩の「敬語」下手

民間企業との共同研究における「研究費受入額」が平成25年度と比較して約26億円増加の約416億円となり、本調査開始後、初めて400億円を超えている

 文部科学省が公表している、「大学等における産学連携等実施状況について」という資料を見ると、大学等における共同研究件数は過去5年に渡って、増加傾向が続いていることがわかる。とくに最新版となる平成26年度版においては、民間企業との共同研究における「研究費受入額」が平成25年度と比較して約26億円増加の約416億円となり、本調査開始後、初めて400億円を超えている。また「研究実施件数」も前年度より1189件増加。さらに「特許権実施等件数」も、前年度よりも946件増加となる10802件で、本調査開始後、初めて1万件を突破した。まさに今は、産学官連携花盛りといったところだ。

 どうして今、産学官連携への関心が高まっているのだろうか。そもそも、産学官連携を行うメリットは何だろう。産学官連携を行う際の企業側の最も大きなメリットは「人材」だ。企業が独自で新しい技術や製品などの開発を行おうとした場合、それに必要な知識や経験を積んだ人材を育成したり、確保するのは容易ではない。しかし、大学と協同することで、その問題は途端に解決する。専門分野の研究者が即戦力としてパートナーになり、コストや時間が大幅に短縮できるからだ。また、大学の恵まれた研究設備も大きな魅力だ。企業側が新たな設備投資をしなくても、連携する研究者を通じて最新の研究設備を活用できることは、研究開発の大きな推進力となる。さらに、助成金などの公的資金の活用などについても有利だ。

 特にエレクトロニクス関連業界では、産学官連携が重要な戦略になりつつあるようだ。日本では現在、少子化に加えて若者の理数系離れが進んでいることで、ITエンジニアを確保することが難しくなっていることも一因かもしれない。

 そんな中、半導体大手のローム株式会社は、12日、半導体に関する技術の更なる活性化と発展を目的として、大学や高等専門学校、公的研究機関に所属する若手研究者を対象にした研究公募制度を創設し、募集を開始した。募集の対象となるテーマは、センサやパワーデバイス、無線通信など6つの分野で、本年度内に採択し、今年4月からの研究開始を予定している。約1年から2年の期間、研究費の支援をおこなうという。ロームは地元京都大学など既に多くの産学関連の取り組みを実施しているが、広く公募をすることでより多くのアイディアを募りたい考えだ。

 またひと口に産学官連携といっても、その分野は実に様々だ。平成26年度の産学官連携の主な事例をみても、活動内容は多岐にわたっている。

 食品分野では、敷島製パンと、小麦の一大産地十勝に立地する帯広畜産大学が連携し、平成24年に製パン実験施設「とかち夢パン工房」を設置。同工房を活用して様々な製パン法の研究を進めてきた成果として、新湯種製法(特願2013-247022)を共同で特許出願している。

 また、富士ソフト株式会社はステレオカメラ分野の権威である東京工業大学の實吉敬二准教授と共同で、ステレオカメラの調整用ソフトを開発・販売するとともに、FPGA(field-programmable gatearray)を搭載した基板である評価キットを発売している。このキットによってシステム開発が容易となるため、自動車分野での活用をはじめ、あらゆる生産ラインでの応用など、ステレオビジョン市場の拡大に貢献することが期待されている。

 こういった企業の取り組みは、日本が国際競争力を維持するためには、今後ますます必要となってくるだろう。戦略的な産学官連携を積極的に行うことによって、知恵が結集し、技術の融合・発展が活発に行われれば、日本経済の大きな推進力になるのは間違いない。(編集担当:藤原伊織)