ここ数年、モバイル機器の市場を中心に注目が高まっていたワイヤレス給電技術が、いよいよ本格的な普及の兆しを見せはじめている。ワイヤレス給電技術は、コネクタの安全性や防水性、防塵性の面で従来の有線給電よりも優れていることと、一つの給電装置を様々な端末で共有利用できることなどを理由に注目されている。しかし、モバイル機器市場をはじめ、ホテルや空港のラウンジなどの公共施設、自動車などへの導入は進んでいるものの、これまで一般家庭への普及は足踏み状態だった。ところがこの春、現状を打破する新しい技術が登場したことで、一般家庭などの普及に向けて大きく動き出しはじめた。
4月8日(金)に品川プリンスホテルにて開催されたワイヤレスパワーコンソーシアム(WPC)主催の「ワイヤレスパワー総合展示会&セミナーin Tokyo」には、世界中から業界関係者や専門家が集結。Qi規格製品のデザインワークショップや各分野の専門家によるワイヤレスパワーセミナー、ワイヤレスパワー応用技術をテーマにした展示会などで大いに盛り上がった。フィリップスなど、多くの外資企業の展示が目立つ中、ひと際関心を集めていたのは、ローム<6963>のブースで展示された業界初の15W級ワイヤレス給電Qi認証取得済みのリファレンスボード「BD57020MWV-EVK-001」(送電側)と「BD57015GWL-EVK-001」(受電側)であった。
同製品には、ロームが開発したワイヤレス給電制御ICや、同社の子会社であるラピスセミコンダクタ製のローパワーマイコンなど、最先端の技術が搭載されており、WPC Qi規格ミディアムパワーに準拠したワイヤレス給電を簡単に実現することができるという。中でも特筆すべき点は、その給電速度にある。WPC Qi規格ミディアムパワーは、タブレットPCなどでのワイヤレス給電を可能にするほか、従来の5W以下のワイヤレス給電規格と比較すると、スマートフォンでは最大3倍もの速度で充電することが可能になるそうだ。
また、すでに3月よりインターネット販売を開始していることも興味深い。同製品はQi認証取得済み製品と互換性があるので、導入も手軽に行える。ロームとこれまで取引がなかった企業や業界でも、世界中から気軽に注文することができるのは、Qi規格普及にむけての大きな後押しになることだろう。
日系企業ではロームの他にも、パナソニック<6752>や東芝<6502>、ソニー<6758>がWPCのレギュラーメンバーとして名を連ねているが、WPC Qi規格の仕様策定の段階からワーキンググループに参加し、15W級の制御ICやリファレンスデザインをいち早く開発するなど、ロームは日系企業の中でもとくにQi規格の普及に積極的な企業だ。上手くいけば、同製品の登場により、近い将来、多くのコードの充電器が世界中から姿を消して、Qi給電が爆発的に普及するきっかけにかもしれない。(編集担当:藤原伊織)