携帯電話やスマートフォンをはじめとするモバイル機器の急激な普及と発展にともなって、ワイヤレス給電技術の需要が高まっている。ワイヤレス給電技術の特長は、何といってもわずらわしい配線がなくなること。そして同一規格に対応している商品であれば、一つの給電装置を様々な端末に使用できること。さらに従来のケーブルを介した給電とは異なり、コネクタの安全性や防水性、防塵性にも優れていることなどが挙げられる。ホテルや空港ラウンジ、自動車のセンターポケットなど、インフラへの導入も積極的に進んでおり、最近ではAppleのスマートウオッチ「Apple Watch」に搭載されたことなどもあって、認知度も今年に入ってから飛躍的に高まっている。
ワイヤレス給電技術を取り入れた商品も続々と市場に現れ始めている。例えば、大手家具販売店のIKEAでは今年5月にアメリカの半導体メーカー・IDT(Integrated Device Technology)社のワイヤレス給電向けトランスミッタIC「P9030」をサイドテーブルやランプなど、家具やホームアクセサリーに内蔵することを発表したり、8月には東芝<6502>が、モバイル機器やモバイルアクセサリー、玩具などに、ケーブル充電と同程度の速度で充電可能なワイヤレス給電用レシーバIC「TC7764WBG」を製品化するなど、話題にも事欠かない。
このように市場が盛り上がりを見せる中、今度はローム<6963>が、ワイヤレス給電制御IC「BD57020MWV」(送電側)を搭載したリファレンスデザインで、ワイヤレス給電の最先端規格として注目されている国際規格「WPC Qi規格ミディアムパワー」のQi認証を世界で初めて取得した。
リファレンスデザインとは、半導体メーカーが、自社の半導体チップを応用する製品メーカーに提供する設計図のことだ。これを参照しながら製品を設計することで、高い技術力を持たない中小メーカーでも、最新の半導体を搭載した製品を比較的容易に量産することができ、開発の費用も大幅におさえることができる。
また、WPC Qi 規格ミディアムパワーは、ワイヤレス給電の最先端規格で、容量大きなタブレットPCなどのアプリケーションでワイヤレス給電を実現するほか、スマートフォンに至っては、5W以下の従来規格と比較して、最大で3倍の速度で充電することが可能といわれている。
今回、ロームのリファレンスデザインがQi 認証を取得したことで、容易にワイヤレス給電を導入できるようになった。これにより採用アプリケーションが一気に増大することが予測されている。また、同社ではワイヤレス給電制御IC「BD57015GWL」(受電側)を搭載したリファレンスデザインでもWPC Qi 規格ミディアムパワーのQi 認証を取得する予定をしており、これが認証されれば、さらに市場の拡大が期待できそうだ。(編集担当:藤原伊織)