【自動車業界の2016年3月期決算】海外の販売台数は引き続き伸びても、今期は円高で円ベースの売上、利益の目減り覚悟

2016年05月23日 07:28

 5月13日、自動車業界の2016年3月期本決算が出揃った。4月に燃費データねつ造スキャンダルが発覚し5月に日産・ルノーの傘下入りを発表した三菱自動車は今期見通しの発表を延期し、トヨタが完全子会社化するので7月に上場廃止になるダイハツ工業は今期見通しを発表しなかった。

 2015年度(4~3月)の国内新車販売台数(軽自動車を含む)は6.8%減の493万7638台にとどまり、東日本大震災の影響を受けた2011年度以来4年ぶりに500万台を割り込んだ。消費増税の影響が出た2014年度の6.9%減とほぼ同率の減少。登録車は312万4406台で2014年度とほぼ同じ台数(横ばい)と健闘したが、新車販売の約4割を占める軽自動車は2015年4月に実施された軽自動車税の税率引上げの影響が大きく、181万3232台で前期比16.6%減と悪かった。

 大手8社トータルの2015年度の国内生産台数は4.1%減の866万1345台で、2年連続で前年実績を下回った。900万台を割り込んだのは2011年度以来4年ぶり。メーカー別ではトヨタ、日産、ホンダ、スズキ、ダイハツ工業が減少、マツダ、富士重工業、三菱自動車が増加した。

 ■前期の減益要因はタカタの問題と軽自動車増税ぐらい

 2016年3月期の実績は、トヨタ<7203>は売上高4.3%増、営業利益3.8%増、税引前当期純利益3.1%増、最終当期純利益6.4%増の増収増益。3期連続の過去最高益更新だが2015年3月期に比べて増収幅、増益幅が縮小した。普通株の年間配当は10円増配して210円。ダイハツ、日野を含めた世界販売台数実績は1009万台だった。北米市場は原油安に連動したガソリン安で大型車の販売が伸び、ヨーロッパも伸びたが新興国の販売は低迷。国内は軽自動車の増税の影響が出た。営業利益ベースでは愛知製鋼の事故による生産停止の影響が約600億円あり、研究開発投資などのコストも増加したが、設計面の改善など原価低減の取り組みが3900億円の削減効果をあげ、円安による上乗せ効果も1600億円あり最高益を更新した。

 日産<7201>は売上高7.2%増、営業利益34.6%増、経常利益24.2%増、当期純利益14.5%増の増収、2ケタ増益。最終利益は10期ぶりの過去最高益更新。年間配当は9円増配して42円。世界販売台数は2%増の542万台。国内は8%減でも、ガソリン安、金利安の恩恵を受けた北米市場はSUVに引っ張られて10%増、中国もSUVが人気で6%増。ヨーロッパ市場では高級車「インフィニティ」の販売が伸びた。新興国は不振。原材料価格の下落による製造原価の低下が増益に寄与した。タカタ製エアバッグのリコール費用で907億円の特別損失を計上している。

 ホンダ<7267>は売上収益9.6%増、営業利益24.9%減、税引前利益21.2%減、当期利益27.6%減、最終当期純利益32.4%減の増収、大幅減益。年間配当は88円で据え置き。北米市場、中国市場では販売好調で、世界販売台数は9%増の474万台まで伸び、それが2ケタ増収寸前まで売上を押し上げた。昨年の販売台数が伸びなかった反動もある。それでも利益が大幅減益になった理由は「自動運転」のような次世代技術の開発などで研究開発費の増加したことと、タカタ製エアバッグのリコール費用。リコール関連費用は追加分を含めて4360億円にのぼった。

 マツダ<7261>は売上高12.3%増、営業利益11.8%増、経常利益5.2%増。当期純利益は15.4%減。売上高と営業利益はほぼ前期並みの2ケタの伸び率だったが、経常利益は増益幅が大幅に圧縮し最終利益は減益だった。「株主還元を手厚くする」という公約通り年間配当は前期比20円増の30円で、配当性向が3.8%から13.3%に急増している。

 グローバル販売台数は全世界で「CX-3」「CX-5」が寄与して9.8%増の153万台。そのうち日本は「デミオ」「ロードスター」も売れて3.5%増の23万台、北米は「MX-5」も好調で3.0%増の43万台、ヨーロッパは「Mazda2」も引き続き販売好調で12.0%増の25万台、中国は「Mazda3(アクセラ)」「Mazda6(アテンザ)」の人気が続き9.5%増の23万台と、販売は世界の主要市場で前年比プラスを記録している。最終減益の要因は、タカタのエアバッグ問題に関連してリコール費用(品質関連費用)を製品保証引当金繰入額として特別損失へ計上したこと。

 富士重工<7270>は売上高12.3%増、営業利益33.7%増、経常利益46.6%増、当期純利益66.7%増の2ケタ増収増益。2015年3月期よりも増益幅が拡大した。営業利益は4期連続で過去最高益を更新した。年間配当は76円増配の144円と大盤振る舞い。円安を追い風にSUVの北米向け輸出が好調で、2015年度の国内生産台数は1.0%増の71万4879台と、年度ベースで過去最高だった。

 三菱自動車<7211>は売上高4.0%増、営業利益1.8%増、経常利益7.0%減、当期純利益24.6%減の増収、大幅最終減益。年間配当は前期と同じ16円に据え置いた。販売台数は、国内は13.9%減で消費増税の影響を受けた前期の19.9%減よりもマイナス幅が圧縮したが、海外は1.5%減でマイナスに転じた。それでも北米市場では人気車「アウトランダー」中心に販売台数が16%伸びた。国内外トータルの販売台数は4.3%減、生産台数は5.4%減。営業利益の増減要因では「為替」がマイナス172億円で大きいが、プラス309億円の資材費等のコスト削減や台数・車種構成等の改善で補って営業増益を確保した。アメリカ子会社について246億円の特別損失を計上している。

 スズキ<7269>は売上高5.5%増、営業利益8.9%増、経常利益7.6%増、当期純利益20.4%増の増収、2ケタ最終増益。2015年3月期の減益から増益に転じた。年間配当は5円増配して32円。四輪車の世界販売台数は約1%増の274万6000台で、販売が約12%増えたインドの四輪車販売の好調さが、軽自動車税の増税で落ち込んだ国内販売をカバーした。パキスタンやヨーロッパは増収、インドネシアは減収。利益面ではフォルクスワーゲン株の売却益も寄与している。

 ダイハツ工業<7262>は売上高7.0%減、営業利益24.6%減、経常利益27.9%減、当期純利益38.5%減の減収、大幅減益。営業利益の減収幅横ばい以外は減収幅も減益幅も前期から拡大した。年間配当は前期比16円減の32円だった。2015年4月の軽自動車税の増税に伴う反動減が大きく、国内の軽自動車販売台数は1.7%減だった前期よりもさらに悪く15%減の58万台。海外も主要販売先のインドネシアがルピー安、景気低迷でふるわなかった。数年前まで国内の車名別新車販売台数で上位を占めて活気があった「軽」は、狙い撃ちの増税にトドメを刺され、もはや見る影もない。苛税は虎よりも猛し。