5月13日、工業用ゴム製品大手7社の2016年3月期決算が出揃った。ゴム業界ではタイヤは別格として、ゴムベルト、ゴムホース、防振ゴム、パッキン類などを「工業用ゴム製品」と分類している。日本の工業用ゴムの技術は世界でも最高水準で、輸出や海外現地生産も盛んに行われている。一般産業資材向けの需要もあるが、自動車業界からの受注生産が大半を占める。そのため自動車メーカーの生産・販売動向に左右されやすい。
2016年3月期の業績は、最終利益2.5倍の住友理工、増収増益の西川ゴム工業、減益から増益に転じたバンドー化学、鬼怒川ゴム工業、増益から減益に転じたフコク、減収、最終減益の日本ゼオンなど、各社バラバラ。自動車向けが北米はいいが中国、アジアが不振だったり、産業用が製品分野により需要の強弱がまちまちだったり。しかし2017年3月期の業績見通しは、熊本地震の影響で発表を見送った1社を除くと売上は減収が4社、ほぼ横ばいが2社。最終利益は2ケタ増益3社と減益1社が混在している。全般的に経営環境は厳しくなると予想している。
■最終利益2.5倍の住友理工から減収、最終減益の日本ゼオンまで
2016年3月期の実績は、国際会計基準(IFRS)を採用している住友理工<5191>の売上高は前年同期比5.9%増、営業利益は57.3%増、税引前利益は84.4%増、当期利益は74.0%増、最終当期利益は154.3%増(約2.5倍)で増収、大幅増益の好調な決算。年間配当は18円で据え置き。自動車用品は増収増益で営業利益は約2倍と好調。国内では内装品の販売が好調で燃料電池車向けゴム製シール部材の販売も伸びた。海外では北米、中国で増収。一般産業用品は減収減益で、中国で建設・土木機械向け高圧ホース、プリンター消耗部品の販売が伸び悩んだが、住宅の遮音対策、地震対策の製品は増収だった。
日本ゼオン<4205>は売上高3.9%減、営業利益5.7%増、経常利益3.4%増、当期純利益5.2%減の減収、最終減益。年間配当は1円増配して15円。合成ゴムは国内は悪かったが、医療用手袋の原料の合成ラテックスが好調。東南アジアでエコタイヤ向け需要が伸びた。高機能材料も光学フィルムがスマホや液晶テレビ向けに販売を伸ばした。石油化学製品なので原油安は営業増益に寄与。最終減益の要因は英国の合成ゴム子会社を解散して特別損失を計上したため。
バンドー化学<5195>は売上高2.2%減、営業利益24.3%増、経常利益11.1%増、当期純利益16.7%増の減収、2ケタ増益。2015年3月期の増収減益から減収増益に変わった。年間配当は2円増配して12円。主力の自動車・産業機械向けの伝動ベルトが海外、特に北米で好調だった。精密機器向けの精密ベルトも伸びている。
西川ゴム工業<5161>は売上高2.2%増、営業利益45.1%増、経常利益51.7%増、当期純利益74.2%増の増収、大幅増益。利益項目は2015年3月期の大幅減益からV字回復した。年間配当は36円で据え置き。主要取引先のマツダの国内生産が好調で自動車部品は増収、大幅増益。北米で第3工場が稼働を開始した。一般産業資材は減収増益。
鬼怒川ゴム工業<5196>は売上高5.3%増、営業利益26.9%増、経常利益1.3%増、当期純利益5.0%増の増収増益。2015年3月期の減益から増益に変わった。主要取引先の日産が北米、中国で販売台数を伸ばしたのに連動して、車体シール材、防振ゴム、ブレーキ系、サスペンション系の部品の受注が伸びた。3月11日に日本政策投資銀行のTOB(株式公開買い付け)を受け入れ、その完全子会社になると発表。今期中に上場廃止になる見通し。それを前に期末配当を無配としたため、年間配当は4円減配の6円。
フコク<5185>は売上高3.1%増、営業利益6.5%減、経常利益18.1%減、当期純利益29.4%減の増収、大幅減益。年間配当は20円で据え置き。メキシコ工場が本格稼働し、北米やベトナムで日系自動車メーカー向けの売上が伸びたが、利益3項目は2015年3月期の増益から減益に転じた。その要因は製造原価のコスト増、円高による為替差益の減少と固定資産の減損損失計上。
三ツ星ベルト<5192>は売上高1.2%増、営業利益7.0%増、経常利益5.2%減、当期純利益7.4%減の増収、最終減益。年間配当は2015年3月期の特別配当分に相当する2円を減配して8円とした。上半期の円安から下半期の円高へ経営環境が激変し、それが減益の大きな要因。自動車用ベルトが主力なので中国、東南アジアでの自動車販売の減速も響いた。農業向け、食品工場向けの搬送ベルトなど産業用は堅調だった。
■売上見通しは減収か横ばいだが3社が2ケタ最終増益を見込む
2017年3月期の業績見通しは、住友理工の売上高は3.4%減、営業利益は4.9%増、税引前利益は5.1%増、当期利益は39.2%増、最終当期利益は72.4%増という減収、最終大幅増益。予想年間配当は1円増配して19円。
日本ゼオンは売上高5.3%減、営業利益6.2%減、経常利益12.9%減、当期純利益5.1%増の減収、最終増益。予想期末配当は1円増配して16円。
バンドー化学は売上高0.8%増、営業利益0.7%増、経常利益0.6%増、当期純利益2.6%増で、最終増益以外はほぼ横ばいの見通し。予想年間配当は12円で据え置き。
西川ゴム工業は九州に製造拠点はないが、熊本地震の影響で発表時点で2017年3月期の業績予想の開示は困難だとして、業績見通しと配当予想の発表を延期した。
鬼怒川ゴム工業は売上高4.0%減、営業利益7.9%減、経常利益3.8%増、当期純利益11.0%増の減収、最終2ケタ増益。予想年間配当は無配転落。日産が三菱自動車を傘下におさめた効果は見通しに反映していない。
フコクは売上高0.4%増、営業利益2.2%増、経常利益3.8%増、当期純利益11.7%増の増収、最終2ケタ増益を見込む。予想年間配当は20円で据え置き。
三ツ星ベルトは売上高1.6%減、営業利益13.5%減、経常利益14.0%減、当期純利益8.6%減の減収減益見通し。予想年間配当は18円で据え置き。(編集担当:寺尾淳)