5月13日、通信業界4社の2016年3月期本決算が出揃った。携帯キャリア3社はNTTドコモが増収増益に転じ、KDDIは大幅増益。ソフトバンクGは最終減益に転じたが子会社上場による増益の反動減という一時的な要因で、国内通信事業は順調に伸びており収益性も改善している。NTTは光回線の販促費負担が軽減されて減益から増益に転じた。2017年3月期の見通しはNTTドコモとKDDIは連続増収増益を見込み、為替要因で減収見込みのNTTも増収に変わる要素はある。ソフトバンクGの業績見通しは非公表だが、「お荷物」と見られてきたスプリントの業績に明るい見通しが出てきた。
■一時的な要因を除けば実質的には全社が増収増益
2016年3月期の実績は、NTT<9432>は営業収益4.0%増、営業利益24.3%増、税引前当期純利益24.6%増、最終当期純利益42.4%増の増収、大幅増益。2015年3月期は2ケタ減益で揃っていた利益項目は、全て20%を超える増益に転じた。営業利益は2004年3月期以来の高水準で、最終利益は11年ぶりに過去最高を更新という好決算。年間配当は前期比70円減の110円だが、7月1日に1株を2株にする株式分割を実施しているので実質20円の増配。業績が回復したNTTドコモの通信収入、特にデータ通信やコンテンツ配信の収入の伸びと、NTT東日本、NTT西日本の光回線販促費削減が寄与した。最終利益の大幅増益には、NTT西日本の繰り延べ税金資産計上という一時的な要因もある。
NTTドコモ<9437>は売上高3.3%増、営業利益22.5%増、税引前当期純利益20.8%増、最終当期純利益33.7%増で、2期連続減収減益から脱して増収増益になった。年間配当は5円増配して70円。ドコモは他社より従来型携帯電話(ガラケー)の比率が大きかったが、それに代わって「iPhone」などスマホの利用が増え、データ通信の料金収入が伸びたことが増収増益の要因。1~3月の1契約当たりの月間平均収入(ARPU)は4260円で他社とほぼ肩を並べた。以前から動画配信や「dマーケット」などコンテンツサービスの充実に力を入れていることも、ユーザーにデータ通信の利用を促している。
KDDI<9433>は売上高4.6%増。営業利益25.2%増、税引前利益23.6%増、当期利益34.8%増、最終当期利益24.9%増で増収、大幅増益。年間配当は100円減の70円だが、4月1日に1対3の株式分割を実施しているため実質的には40円の増配になる。固定と携帯の両方でKDDI(au)と契約すると携帯料金が割引になる「auスマートバリュー」が効果をあげ、au契約数は3月末時点で1155万、世帯数は572万まで伸びた。「auスマートパス」会員は1年で158万人増加して1447万人。この顧客基盤のもとで特にスマホのデータ通信収入が増加し、増益につながった。
ソフトバンクG<9984>は売上高7.6%増、営業利益8.8%増、税引前利益17.1%減、当期利益26.9%減、最終当期利益29.1%減で、2015年3月期の最終大幅増益から一転、最終大幅減益。年間配当は1円増配して41円。モバイル中心の主力の国内通信事業が約4%伸び、ヤフー(国内法人)の好業績、アメリカのスプリントのコスト削減など合理化効果も寄与して売上高、営業利益はプラス。2015年3月期に中国のアリババが上場し、それに伴う一時的な利益で押し上げられた反動が出たため、最終利益は大幅減になった。
■データ通信収入につながるコンテンツ競争が今期も白熱
2017年3月期の通期業績見通しは、NTT<9432>は営業収益0.8%減、営業利益6.1%増、税引前当期純利益6.1%増、最終当期純利益1.7%増の減収増益を見込む。予想年間配当は10円増配して120円。政府から要請された携帯料金の値下げを受け入れ今年6月に実質値下げしても、NTTドコモは通期で増収になる見込み。減収の要因は為替の円高で、約1400億円押し下げるとみている。NTTデータが6月をメドにデルのITサービス部門を買収する効果は見通しに織り込んでいない。それにより減収が増収に変わり、増益幅がひろがる可能性はある。
NTTドコモ<9437>は売上高2.1%増、営業利益16.2%増、税引前当期純利益17.5%増、最終当期純利益16.7%増の連続増収増益を見込む。予想年間配当は10円増配の80円。今年6月に長期契約者を対象に割引を拡充して実質値下げするが、データ通信を中心に通信収入が伸び、「iモード」で稼いだ2005年3月期の7475億円以来の最終利益額を見込む。営業利益見通しは減価償却の定率法から定額法への変更による約500億円増を含めて9100億円で、8200億円以上とした2018年3月期までの中期目標を1年前倒しで達成する見込み。
KDDI<9433>は売上高5.2%増。営業利益6.2%増、最終当期利益9.2%増の連続増収増益を見込む。予想年間配当は10円増配して80円。3M(マルチユース、マルチデバイス、マルチネットワーク)戦略をさらに推進し、業績目標は2019年3月期までの営業利益年平均増益率7%の達成。2019年3月期まで3ヵ年の中期の事業運営方針は「お客様体験価値を提供するビジネスへの変革」で、具体的な戦略として「国内通信事業の継続的成長」「au経済圏の最大化」「グローバル事業の積極展開」の3つを挙げている。
ソフトバンクG<9984>の今期業績見通しは「業績に影響を与える未確定要素が多いため業績予想を数字で示すのが困難」として非公表。年間配当予想は3円増配して44円。今期業績を左右する最大の焦点、スプリントについて孫正義社長は、9年ぶりの営業黒字を「着実に稼げるようになった」と評し、最終黒字転換は「今年度中は難しいが近い」と、明るい見通しを述べた。スプリントが「業績のお荷物」でなくなれば、大型M&Aも含めた次の成長戦略に着手しやすくなる。(編集担当:寺尾淳)