4~12月期決算で、世界の市場を相手にしている外需型企業の業績の足を引っ張った二つの元凶は「中国」と「パソコン」だった。中国は景気の低迷に加えて、尖閣問題をめぐり日本車や日本製家電などの不買運動が起きた。パソコンのほうは全世界的にスマホやタブレットに押されて販売不振に陥った。その両方に関係がある半導体、半導体製造装置、電子部品のメーカーの中には、採算が悪化して黒字から赤字に転落したところも出た。
自動車のトヨタ<7203>は、売上高は26.0%増の16兆2271億円、営業利益は約7倍の8185億円、純利益は約4倍の6481億円。国内、海外とも売上高を増やしたが、特に北米での販売が好調で、円安で採算も改善している。連結販売台数見通しを10万台上乗せした。通期業績見通しは売上高を5000億円、営業利益を1000億円、純利益を800億円、それぞれ上方修正している。通期平均の想定為替レートはドル円を79円から81円、ユーロ円を100円から104円に改めた。
日産<7201>は、売上高は1%増の6兆7551億円、営業利益は18%減の3491億円、純利益は13%減の2323億円。ヨーロッパ以外で販売台数を増やし世界全体で6%増だったが、北米での競争激化、販管費の増加などで減益になった。通期の世界販売台数は508万台で据え置き。通期の業績見通しは修正せず、想定為替レートもドル円79.7円、ユーロ円101.8円の従来見通しを変更していない。
三菱自動車<7211>は、売上高は1%減の1兆2826億円、営業利益は6%増の409億円、純利益は27%増の173億円。東南アジアで「ミラージュ」の販売台数が順調に伸びたが円高の影響で減収に。リコール問題の関連費用75億円は資材費などのコスト削減や車種構成の改善で吸収した。通期の世界販売台数は104万4000台から101万台に引き下げ。通期業績見通しは売上高を200億円、営業利益を160億円、それぞれ下方修正する。通期の想定為替レートは、ドル円は79円を81円に、ユーロ円は100円を104円に改めた。
マツダ<7261>は、売上高は8%増の1兆5351億円、営業利益は196億円(前年同期は542億円の赤字)、純利益は255億円(前年同期は1128億円の赤字)。国内でも海外でもSUVの「CX-5」、セダンの「アテンザ」の売れ行きが好調で、円安効果も寄与している。通期業績見通しは売上高を200億円、営業利益を200億円、純利益を160億円、それぞれ上方修正する。通期の想定為替レートは、ドル円は80円を81円に、ユーロ円は100円を104円に改めた。
富士重工<7270>は、売上高は33%増の1兆3707億円、営業利益は2.6倍の733億円純利益は45%増の531億円。主力の「レガシィ」「インプレッサ」の販売が北米市場で伸びたのが寄与した。通期の世界販売台数は7900台上積みする。通期業績見通しは売上高を500億円、営業利益を250億円、純利益を90億円、それぞれ上方修正する。通期の想定為替レートは、ドル円は79円を82円に、ユーロ円は102円を105円に改めた。
スズキ<7269>は、売上高は1%増の1兆8227億円、営業利益は6%増の928億円、純利益は19%増の484億円。エコカー補助金効果やで国内で四輪、特に軽自動車の販売が好調だった。海外ではインド、インドネシア、タイで販売が伸びた。通期業績見通しは営業利益、経常利益をそれぞれ100億円上方修正する。想定為替レートは、ドル円は77円を81円に、ユーロ円は99円を105円に、1インドルピー1.43円を1.5円に改めた。
いすゞ<7202>は、売上高は23%増の1兆1857億円、営業利益は41%増の902億円、純利益は33%増の647億円。震災復興需要などで売上単価の高い普通トラックの国内販売が好調で、タイなどASEAN地域でもトラック、ピックアップトラックが伸びた。通期業績見通しは据え置き。輸出の円建て比率が約9割と高いので想定為替レートは発表していない。
電機の日立<6501>は、売上高は5%減の6兆4687億円、営業利益は13%減の2319億円、純利益は41%減の503億円。自動車部品は好調だったが半導体やディスプレー関連製品の需要が下振れし、ハードディスク事業の売却、中国の景気減速による建機部門の業績悪化も影響した。通期業績見通しは売上高を1000億円、営業利益を600億円、純利益を500億円、それぞれ下方修正する。1~3月期の想定為替レートは、ドル円は78円を90円、ユーロ円は103円を120円に改めた。
三菱電機<6503>は、売上高は2%減の2兆5068億円、営業利益は30%減の1132億円、純利益は40%減の491億円。主力のFAは中国市場で設備投資が減少するなど不調。パワー半導体などの電子デバイス事業も採算が悪化した。防衛省への過大請求問題の返納金757億円もコスト高を招いた。減収減益の通期業績見通しは据え置きで年間配当予定は未定。通期の想定為替レートもドル円80円、ユーロ円100円で変更しなかった。
ソニー<6758>は、売上高および営業収入は4%増の5兆678億円、営業利益は829億円(前年同期は658億円の赤字)、最終損益は508億円の赤字(前年同期は2014億円の赤字)。ゲーム機は苦戦したが映画、音楽、金融の各分野が好調で、ソニーモバイルの完全子会社化もあって増収。薄型テレビなどエレクトロニクス事業の採算が改善し、円安効果も出て赤字幅が縮小した。最終損益が1500億円の黒字の通期業績見通しは据え置き。1~3月期の想定為替レートは、ドル円は80円前後を88円前後、ユーロ円は100円前後を115円前後に、それぞれ改めた。
富士通<6702>は、売上高は1.6%減の3兆1200億円、営業利益は65.2%減の35億円、最終損益は901億円の赤字(前年同期は14億円の黒字)。パソコンや電子部品の市場低迷と価格低下、携帯電話の競争激化、半導体の市況悪化の影響が深刻で、コストダウンや円安効果では補えなかった。通期業績見通しは売上高を500億円、純利益を1200億円それぞれ下方修正し、最終損益見通しは250億円の黒字から950億円の赤字に。年間配当も10円から5円に引き下げ、期末は無配とした。通期の想定為替レートは、ドル円は77円を90円に、ユーロ円は100円を120円に、英国ポンドは1ポンド125円を140円に改めた。なお、決算発表と同時に従業員9500人を削減するリストラ策を発表している。
半導体のルネサスエレクトロニクス<6723>は、売上高は10.8%減の6003億円、営業損益は312億円の赤字(前年同期は331億円の赤字)、最終損益は355億円の赤字(前年同期は369億円の赤字)。中国での日本製品の不買運動の影響を受けて主力のマイコンが不振。LSIのスマホ向け需要も予想を下回って売上の減少が止まらず、工場売却や10月の約7500人削減のリストラ効果も打ち消された。産業革新機構や大口ユーザーへの第三者割当増資を控え人員削減をさらに追加する予定。通期業績見通しでは売上高は500億円、営業利益は470億円、純利益は260億円それぞれ下方修正し、営業損益は210億円の黒字から260億円の赤字に変わり、純利益の赤字幅は拡大する見通し。通期の想定平均為替レートは、ドル円は78円を82円、ユーロ円は100円を106円に、それぞれ改めた。
半導体製造装置の東京エレクトロン<8035>は、売上高は21.5%減の3585億円、営業利益は87.6%減の53億円、最終損益は9億円の赤字(同274億円の黒字)。パソコンの不振に加えてスマホ需要が予想外に伸び悩み、半導体メーカーの設備投資が回復せず半導体製造装置の生産が伸びなかった。電子部品の販売も低迷し、研究開発費や外注費の削減などの合理化効果では採算をカバーできなかった。通期業績見通しは、売上高は60億円、営業利益は30億円、純利益は25億円、それぞれ下方修正している。
大日本スクリーン<7735>は、売上高は27.4%減の1257億円、営業利益は105億円の赤字(前年同期は96億円の黒字)、最終損益は166億円の赤字(前年同期は25億円の黒字)。主力の半導体製造装置の販売が半導体メーカーの設備投資抑制によって国内も海外も大きく落ち込み、液晶製造装置も不振だった。減収、最終赤字の通期業績見通しは据え置き。
住友電気工業<5802>は、売上高は7%増の1兆5632億円、営業利益は2%増の469億円、純利益は29%減の260億円。中国の日本車不買運動で主力の自動車用ワイヤハーネスが不振に陥り、フレキシブルプリント基板も採算が悪化。エジプトの工場停止、情報通信部門のリストラに伴う特別損失も響いて最終減益になった。増収減益の通期業績見通しは据え置き。通期の想定為替レートをドル円80円、ユーロ円100円で据え置くのは、為替予約を進めてきたためと説明している。
精密機器のニコン<7731>は、売上高は9%増の7632億円、営業利益は43%減の392億円、純利益は31%減の323億円。テレビの販売低迷などで半導体用露光装置が苦戦した。デジタル一眼レフの販売はタイの洪水で生産を停止した前年同期より良かったが、競争の激化で11月下旬から売れ行きが鈍化して価格が下落し、採算も悪化。通期販売台数見通しを10万台引き下げた。通期業績見通しは売上高を100億円、営業利益を240億円、純利益を220億円、それぞれ引き下げた。純利益の見通しは1%増益から36%減益に変更。通期の想定為替レートはドル円を80円から81円に、ユーロ円を100円から105円に改めた。
電子部品のイビデン<4062>は、売上高は3%減の2087億円、営業利益は54%減の44億円、純利益は29%増の22億円。スマホ、タブレット用部品の売上は順調に伸びたが、パソコン用部品の販売減のほうが大きくて電子部品は減収。自動車排気系部品も不振だった。純利益増は円安の進行で得た為替差益22億円が寄与している。減収減益の通期業績見通しは据え置き。
電池大手のGSユアサ<6674>は、売上高は5%減の1958億円、営業利益は28%減の64億円、純利益は4%減の55億円。ガソリン車用や予備電源用の鉛電池は堅調だったが、同社製リチウムイオン電池を搭載した三菱自動車「アイ・ミーブ」の販売不振が痛手だった。「ボーイング787」に搭載したリチウムイオン電池が飛行中に煙を出した事故の影響は小さいとみられている。増収減益の通期業績見通しと年間配当予定は変更していない。
重工メーカーの三菱重工<7011>は、売上高は1%増の1兆9733億円、営業利益は20%減の785億円、純利益は52%増の499億円だった。営業利益は火力プラントの売価下落、原発再稼働の遅れが響いたが、円安で航空・宇宙部門などの利益が拡大し、為替差益も出ている。通期業績見通しは、営業利益を150億円、純利益を200億円、それぞれ上方修正した。通期の想定為替レートは、ドル円は80円を85円、ユーロ円は100円を110円に、それぞれ改めた。
IHI<7013>は、売上高は4.3%増の8681億円、営業利益は10.7%減の244億円、純利益は7.2%増の179億円。自動車用ターボは不具合対応やヨーロッパでの増産コストが採算を悪化させ、造船不況で新造船の建造量も減少。船舶向けのクレーンなど社会基盤部門も不振だったが、円安による為替差益が純利益に貢献した。通期業績見通しは売上高を100億円、純利益を40億円、それぞれ上方修正する。通期の想定為替レートは、ドル円は80円を85円、ユーロ円は100円を110円に、それぞれ改めた。
ガラスの旭硝子<5201>は12月期本決算を発表した。売上高は2.0%減の1兆1899億円、営業利益は43.9%減の929億円、純利益は54.0%減の437億円。ヨーロッパでは景気低迷で建築用ガラスが不振で、主力の液晶用ガラスの価格低下、エネルギー価格の高騰も影響して減収減益決算になった。2014年12月期業績見通しは売上高が前期比9.2%増の1兆3000億円、営業利益が7.6%増の1000億円、純利益は14.2%増の500億円で、スマホやタブレットなどに使われる化学強化用特殊ガラスなど特殊ガラス分野を強化して3期ぶりの増益を目指す。通期の想定為替レートはドル円90円、ユーロ円120円。
繊維の東レ<3402>は、売上高は2.2%減の1兆1733億円、営業利益は31.2%減の613億円、純利益は30.9%減の372億円。エコカー補助金終了で自動車用のポリエステル繊維やプラスチックの販売が下振れし、フィルムは市況の改善が望めず、薄型テレビ関連は回復せず、中・小型ディスプレイ関連はスマホ以外は低調だった。通期業績見通しは、売上高は150億円、営業利益は30億円、それぞれ下方修正する。通期の想定為替レートはドル円79円を88円に改めた。「ボーイング787」に炭素繊維を供給しているが、日覚社長は通期業績に影響しないとコメントした。
旭化成<3407>は、売上高が2.8%増の1兆2026億円、営業利益が28.2%減の625億円、純利益が25.9%減の356億円。国内市場では住宅や医薬・医療は好調だったが樹脂原料や電子部品が低迷。海外市場では世界的な景気減速、特に新興国の需要低迷で石油化学関連が振るわず、電子部品の採算も悪化した。通期業績見通しは、売上高を160億円、営業利益を60億円、純利益を5億円、それぞれ下方修正する。通期の想定為替レートは、ドル円は79円を82円、ユーロ円は102円を106円に、それぞれ改めた。
医薬品の武田薬品工業<4502>は、売上高は5.5%増の1兆1891億円、営業利益は43.1%減の1506億円、純利益は13.5%減の1389億円。日本市場は薬価引き下げの影響を受けたが糖尿病治療剤「ネシーナ」が伸びてカバーした。ナイコメッド社の買収効果でヨーロッパやアジアは増収だったが、アメリカは主力の糖尿病治療剤「アクトス」に後発品が出て減収になった。通期業績見通しは売上高増、営業利益減、純利益増で据え置き。通期の想定為替レートは、ドル円は80円を82円、ユーロ円は100円を105円に、それぞれ改めた。
総合商社の三井物産<8031>は、売上高は4.8%減の7兆4626億円、営業利益は36.8%減の1828億円、純利益は25.4%減の2539億円。中国の景気減速で鉄鉱石や石炭の価格がかなり下落した上に、5%出資するブラジルのヴァーレ社の減損処理で100億円の評価損も発生。保有株売却で有価証券売却益を360億円計上しても埋まらなかった。通期業績見通しは純利益3100億円で据え置き。1~3月期の想定為替レートはドル円90円とした。
伊藤忠商事<8001>は、売上高は5.1%増の9兆2738億円、営業利益は21.4%減の1642億円、純利益は4.9%減の2081億円。中国の景気減速による鉄鉱石、石炭の価格下落が大きく響き、天然ガス価格の低迷で石油・ガス関連資産を減損処理したことも利益を圧迫した。その一方で住生活・情報、繊維、機械などの部門が非常に好調で純利益ベースでは過去最高の伸び率になっている。増収減益、純利益7%減の2800億円の通期業績見通しは据え置き。通期の想定為替レートもドル円80円で据え置いた。
住友商事<8053>は、売上高は10.9%減の5兆5193億円、営業利益は37.4%減の1221億円、純利益は13.9%減の1886億円。重要な収益源だった石炭の価格が中国の景気減速で約3割減と低迷し、中国での建設用、自動車用鋼材需要も縮小。フィリピンから中国へのバナナの出荷が両国の領土紛争でストップするなど、中国に振り回され続けた。連結業績見通しは期初予想から売上高を5000億円、純利益を300億円下方修正し、最高益更新から一転、減収減益決算に見通しを変えた。年間配当見通しも51円から45円に変更し前期より5円減配。減配は3期ぶりになる。
双日<2768>は、売上高は10.7%減の2兆9481億円、営業利益は38.6%減の237億円、純利益は110億円(前年同期は134億円の赤字)。自動車輸出は伸びたが、中国の景気減速で石炭や鉄鉱石などエネルギーや鋼材の需要が低迷して価格が下落し、さらに世界的な化学品の市場環境悪化、船舶、プラント、たばこ、水産品の不振も影響した。最終利益100億円の通期業績見通しは据え置き。通期の想定為替レートもドル円79円で据え置いた。
決算内容で目立つのは、業種によって、また同じ業種の中でも企業によって「まだら模様」になっていること。企業規模の大小とはあまり関係ない。海外市場で評価された強い製品や分野を持っていたり、コストをうまく削減できたり、円安効果が早く出たりすると通期の上方修正が並ぶ好決算になるが、市場の価格競争に巻き込まれて採算が悪化したり、リストラ効果がまだ出ていなかったりすると決算内容はかなり悪くなり、通期見通しも下方修正を余儀なくされる。前期並みの「まあまあ」な決算がほとんど見受けられないのが今期の特徴である。東日本大震災やタイの洪水の影響を強く受けていた前年同期よりもさらに悪化するのは深刻な事態で、そんな企業は決算発表と合わせて大量の人員削減など追加リストラ策が発表されたりしている。そんな企業は「夜明け前は最も暗い」のか?それとも夜明けはまだまだ遠いのか?(編集担当:寺尾淳)