主要企業の決算相次ぐ、外需型は円安効果で明るい見通し

2013年02月03日 11:30

 その前日夕方に国会内の党首討論で、野田佳彦前首相が安倍晋三自民党総裁に向かって「解散・総選挙をする」と発言し、その後の円安・株高一直線の大きなトレンドが始まったのは2012年11月15日だった。3月期決算企業なら「10~12月の第3四半期のちょうど折り返し」の時点からの話なので、4~12月期決算であれば全体の6分の1の期間にすぎない。そのため、輸出に依存する外需型企業でも円安が決算内容自体に及ぼすプラスの影響はまだ大きくはないが、想定為替レートを大きく変えたり、2013年3月期の通期見通しを上方修正したり、次の2014年3月期について「収益大幅改善の見込み」といったコメントを出すことは十分考えられた。

 自動車のホンダ<7267>は、売上高は29%増の7兆1329億円、営業利益は3.4倍の4088億円、純利益は前年同期比2.1倍の2913億円。震災やタイの洪水の影響で四輪が減産した前年同期の反動に加え、北米市場での新型「アコード」、国内の新型軽「N・BOX」が販売好調だった。通期業績予想は売上高、営業利益は据え置いたが、純利益は50億円下方修正した。想定為替レートは、ドル円は80円を81円に、ユーロ円は103円を105円に改めた。

 自動車部品のデンソー<6902>は、売上高は16%増の2兆5693億円、営業利益は2.3倍の1879億円、純利益は前年同期比3.6倍の1308億円。震災やタイの洪水の影響があった前年同期の反動減に加え、北米向け自動車販売の好調で自動車部品の需要が伸びた。通期業績予想は売上高を400億円、営業利益を150億円、純利益を220億円に、それぞれ上方修正している。想定為替レートは、ドル円は80円を81円に、ユーロ円は100円を105円に改めた。

 電機の東芝<6502>は、売上高は7%減の4兆429億円、営業利益は12%増の982億円、純利益が前年同期比6.2倍の545億円。電力向け設備など社会インフラ部門が過去最高益で、メモリー市況の上昇で電子デバイスの収益も改善。円安メリットも出た。通期業績予想は据え置き。想定為替レートは、ドル円は76円を85円に、ユーロ円は102円を110円に改めた。

 パナソニック<6752>は、売上高は8.8%減の5兆4396億円、営業利益は3.1倍の1219億円、最終損益は6238億円の赤字で、赤字幅は前年同期の1.87倍に拡大した。人件費など固定費の削減で営業利益は改善したが、最終損益はリチウムイオン電池、太陽電池、携帯電話の事業のリストラ費用の計上で悪化した。10~12月期は最終黒字に転換したが通期業績予想は据え置きで、最終損益の7650億円の赤字予想もそのまま。想定為替レートは、ドル円は78円を85円に、ユーロ円は97円を105円に改めた。

 シャープ<6753>は、売上高は6%減の1兆7824億円、営業損益は1662億円の赤字、最終損益は4243億円の赤字。スマホの好調、テレビの販売回復やコスト削減が貢献して10~12月期は5四半期ぶりの営業黒字になり、明るい見通しも出てきた。通期業績予想、無配の配当計画は据え置き。

 半導体検査装置大手のアドバンテスト<6857>は、売上高は2.1%増の971億円、営業損益は8億円の黒字(前年同期は赤字)、最終損益は19億円の赤字(前年同期は77億円の赤字)。パソコンの需要の回復が遅れた上にアップルの「iPhone」の生産調整が大きく響き、通期業績見通しは受注高見通しも売上高も営業利益も下方修正した。

 電子部品の京セラ<6971>は、売上高は4.6%増の9265億円、営業利益は42.0%減の512億円、純利益は37.6%減の449億円。スマホに押されて旧来型携帯電話(ガラケー)の販売が予想以上に低下し、テレビ、パソコン用の電子部品も回復していない。通期業績見通しは売上高を400億円、営業利益を270億円、純利益を180億円、それぞれ下方修正した。想定為替レートは、ドル円は79円を82円に、ユーロ円は101円を106円に改めた。

 村田製作所<6981>は、売上高は14.0%増の5068億円、営業利益は5.3%増の444億円、純利益は0.1%減の314億円。スマホ、タブレット用の電子部品の需要が大きく伸びた。通期見通しは据え置き。

 日本電産<6594>は、売上高は1.6%増の5232億円、営業利益は17.7%減の447億円、純利益は10.9%減の282億円。パソコン向け需要が停滞し、主力のHDD用モーターなどの収益性が低下した。通期見通しは売上高を300億円、営業利益を600億円、純利益を455億円、それぞれ下方修正し、年間配当も95円から80円に下方修正して、上場以来初の実質減配になる見通し。想定為替レートはドル円78円を85円に改めた。

 キヤノン<7751>は四半期決算ではなく本決算。2012年12月期は、売上高は2.2%減の3兆4797億円、営業利益は14.3%減の3238億円、純利益は9.7%減の2245億円。世界市場でのインクジェットプリンターやデジカメの落ち込みがおさまらなかった。2013年12月期の業績予想は、売上高が9.5%増の3兆8100億円、営業利益が26.6%増の4100億円、純利益が13.6%増の2550億円と見込んでいる。通期の想定為替レートはドル円を85円、ユーロ円を115円とした。

 メカトロニクスの安川電機<6506>は、売上高は前年同期比3%減の2191億円、営業利益は39%減の67億円、純利益は45%減の38億円。中国の半導体や電子部品の設備投資減退でサーボモーターなど制御機器の売上が約1割落ち込み、好調な太陽光発電向け電力変換装置や産業用ロボットでカバーできなかった。通期見通しは減収減益のまま据え置き。想定為替レートはドル円は80円から85円、ユーロ円は95円から115円に改めた。

 ファナック<6954>は、売上高は4%減の3850億円、営業利益は13%減の1462億円、純利益は10%減の951億円。ヨーロッパ、中国向け輸出が不振で、特にNC装置などFA部門の落ち込みが約28%と大きかった。通期業績見通しは、売上高は530億円、営業利益は270億円、純利益は200億円、それぞれ下方修正する。想定為替レートはドル円は78円から85円、ユーロ円は99円から115円に改めた。

 建設機械のコマツ<6301>は、売上高は7%減の1兆3505億円、営業利益は22%減の1504億円、純利益は30%減の910億円。中国での油圧ショベルの販売が景気の減速でほぼ半減し、日本の震災復興やアメリカの住宅建設の回復で好調だった建機販売でカバーできなかった。通期業績見通しは、売上高は500億円、営業利益は320億円、純利益は190億円、それぞれ下方修正する。想定為替レートはドル円88円、ユーロ円115円、人民元と円は14.1円に改めた。

 日立建機<6305>は、売上高はほぼ横ばいの5544億円、経常利益は33%減の197億円、純利益は6%増の127億円。中国の建設機械販売が景気減速のあおりで減少し、日本や北米の堅調な需要で埋め合わせできなかった。子会社売却益計上で純利益はプラス。売上高減、営業利益増、純利益増の通期業績見通しは据え置き。想定為替レートはドル円は78円から89円、ユーロ円は100円から119円、人民元と円は12.3円を14.4円に改めた。

 鉄鋼のJFE<5411>は、売上高は1.6%減の2兆3070億円、営業利益は68.5%減の201億円、純利益は219億円(前年同期は赤字)。中国の景気悪化でアジア向けの需要も鋼材価格も低迷したのが響いた。通期業績見通しは、売上高を100億円、営業利益を150億円それぞれ下方修正し、営業増益予想を減益予想に変えた。年間配当は前期から5円引き下げる。想定為替レートはドル円を87円とした。

 東京製鐵<5423>は、売上高は12.2%減の1123億円、営業利益は130億円の赤字、純利益は133億円の赤字。円安・ウォン高を背景に韓国の電炉メーカーの調達が増えて国内の鉄スクラップ価格が上昇し、それを鋼材価格になかなか転嫁できず収益が悪化した。通期業績見通しは、売上高を40億円上方修正したが、営業利益は5億円、純利益は15億円、それぞれ下方修正している。

 信越化学<4063>は、売上高は1%減の7823億円、経常利益は2%増の1280億円、純利益は10%増の834億円。半導体シリコンはパソコン、テレビ向けの不振もあり約4割減だったが、電子・機能材料が伸び、主力の塩化ビニール樹脂が新興国向けを中心に好調で増益に寄与した。増収増益の通期業績見通しは据え置いた。

 富士フイルムHD<4901>は、売上高は微減の1兆6111億円、営業利益は24%減の653億円、純利益は22%増の288億円。医療用機器、医薬品の分野は良かったが、スマホのカメラ機能に押されてデジカメが販売不振に陥り、液晶パネル部材の減収も響いて減収減益だった。通期業績見通しは売上高は据え置き、営業利益は150億円の下方修正、純利益は50億円の上方修正。想定為替レートはドル円87円、ユーロ円は116円とした。

 テルモ<4543>は、売上高は2.4%増の2957億円、営業利益は14.5%減の426億円、純利益は12.5%増の247億円。販売は堅調だったが、国内の薬価公定価の引き下げや販管費の増加が営業利益を押し下げた。通期業績見通しは据え置き。通期の想定為替レートはドル円は80円、ユーロ円は105円。

 医薬品の第一三共<4568>は、売上高は7.1%増の7456億円、営業利益は1.8%増の935億円、純利益は約2倍の515億円。認知症治療剤など新薬の好調、買収したインドのランバクシー社の売上増などが国内の薬価改定の影響をカバーした。通期業績見通しは、売上高を100億円上方修正、経常利益は50億円下方修正し、営業利益と純利益の予想は据え置いた。

 アステラス製薬<4503>は、売上高は1.1%減の7551億円、営業利益は7.8%減の1350億円、純利益は14.2%減の846億円だった。薬価改定による減収に加えて排尿障害改善剤「ハルナール」が後発品にシェアを奪われ、新薬で挽回できなかった。増収増益の通期業績見通しは据え置き。通期の想定為替レートはドル円は80円、ユーロ円は100円。

 任天堂<7974>は、売上高は2%減の5430億円、営業損益は58億円の赤字(前年同期は164億円の赤字)、純利益は145億円(前年同期は483億円の赤字)。ゲーム機もソフトも海外で売れ行きが伸び悩み、期待の「Wii U」も売れ行きに急ブレーキがかかっている。通期業績見通しは、売上高は1400億円下方修正し、営業利益は200億円の黒字から200億円の赤字へ400億円下方修正して2期連続営業赤字の予想に変わった。一方、経常利益は100億円、純利益は80億円の上方修正。年度末の想定為替レートはドル円が90円、ユーロ円が120円とした。

 三菱商事<8058>は、売上高は2.9%減の14兆7362億円、営業利益は62.4%減の876億円、純利益は23.4%減の2836億円。中国の需要減による原料炭など資源価格の下落は依然続いたが、自動車販売や金融の分野の健闘で業績は持ち直しつつある。減収減益の通期業績見通しは据え置いた。

 外需型企業の決算発表を概観すると、コマツ、日立建機、JFE、安川電機、ファナック、三菱商事など生産財メーカーや素材メーカーを主体に、中国の景気後退が業績にかなり大きな爪跡を残した。しかし、その中国の景気も底入れし、アメリカ市場は堅調で国内も持ち直す見通しがあるので今後、各社の売上は復調しそうだ。加えて円安の進行で、想定為替レートと実際のレートの差による利益の上積みも期待できる。業種によって差は出るだろうが、2013年は外需型企業の業績V字回復の年になるのではないだろうか。(編集担当:井畑学)