アトピー性皮膚炎は、日本を含めた先進国の乳幼児によくみられる炎症性皮膚疾患で、主な症状は、強い?痒(そうよう)感が繰り返し起こる湿疹である。発症には家族歴、アレルギー既往歴、環境要因、遺伝的要因などが関係しているが、個々の要因だけでは説明できない複雑な疾患だと考えられている。そのため、アトピー性皮膚炎の発症・悪化のメカニズムはいまだに明らかになっていない。
理化学研究所(理研)統合生命医科学研究センター サイトカイン制御研究チームの久保允人チームリーダー、統合細胞システム研究チームの岡田眞里子チームリーダー、インペリアル・カレッジ・ロンドンの田中玲子講師、ダブリン大学トリニティ・カレッジのアラン・アーヴァイン教授らの国際共同研究グループは、アトピー性皮膚炎の発症および悪化のメカニズムを解明するための「二重スイッチ数理モデル」を構築し、コンピュータシミュレーション解析を行った。
この数理モデルでは、免疫系、皮膚バリアの機能、環境要因などの複雑な相互作用が、経時的にどのように変化しアトピー性皮膚炎の発症・悪化につながるのか、それらの相互作用が遺伝的要因によってどのように影響を受けるかを予測した。そして、アトピー性皮膚炎のメカニズムを、発症を起こすが元に戻りうる“可逆的なスイッチ1”と元に戻らない“非可逆的なスイッチ2”の二重スイッチで表現している。
具体的には、アトピー性皮膚炎の進行には①炎症を発症させるスイッチ1と2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)が活性化し症状を悪化させるスイッチ2が関わっていること、②スイッチ1が頻繁にオンになると、スイッチ2がオンになると表現した。そして、この数理モデルをシミュレーション解析した結果、臨床やマウスモデル系から得られるデータとよく一致し、二重スイッチ数理モデルの妥当性が証明されたという。
保湿剤を皮膚に塗った乳児はアトピー性皮膚炎を発症しにくいことが臨床試験により示されている。今回の解析によって、①保湿剤を使うことで皮膚バリアを強化し、症状悪化のサイクルを止めることが効果的な予防法であること、②この予防法が遺伝的要因の有無に関わらず全ての患者に効果的であることがわかったという。
今後、この手法を各患者データと組み合わせることにより、それぞれの患者に対する必要な治療法の具体的提案が可能になると期待できるとしている。(編集担当:慶尾六郎)