九州大学大学院人間環境学研究院の橋彌和秀准教授らの研究グループは、生後9カ月から1歳半の赤ちゃんを対象として、映像を見ている際の視線を計測する視線計測装置(Tobii TX300)を用いて、画面に現れた2人のうち一方だけが対象に視線を向け、他方がそのことに「気づいていない」場面を見せると、「気づいていない」人物にすばやく視線を向ける傾向が、生後1歳半時点で見られるようになることを明らかにした。
研究では、「画面の2人が前もって注意を共有している場面」ではこのような視線のパターンは見られないなど他条件との比較と統計的な分析から、上記の結果は、これまで既に明らかになっていた「自分と相手の知識や注意の状態の違い」だけでなく、「他者同士の知識の違い」まで認識して行動していることを示すものと結論づけた。この成果により、ヒトにおける能力の発達的起源を理解する上で新たな視点を与えるとともに、子育てや教育の現場に臨むことには、大きな意義があると考えられるとしている。今後は、1歳半で上記の傾向が出現する発達の要因を特定し、また、対面場面での多様な状況を設け、赤ちゃんが如何に状況に応じて情報伝達をする(あるいは「しない」)のかを、実証的に検討する。
研究は、1歳半の赤ちゃんが、「第三者」の立場からも、知識や注意の状態の違いを踏まえた上で「他者を気遣っている」ことを示した初めての研究報告であるという。
大人にとってはごく当たり前におこなわれている日常のコミュニケーションは、実際には様々な能力や認知バイアス(偏り)を前提として成立している。赤ちゃんは、このような前提を、(ことばと同じように)日常のやりとりの中で獲得していく。これからも、赤ちゃんが「意外と」やっていること、「意外と」やっていないことを解きほぐし、発達の視点から社会や文化の基礎を解明していく方針だ。(編集担当:慶尾六郎)