不妊原因の究明や治療法の開発が大きく進展か 九大が成体マウスiPS細胞から体外培養で卵子の作製に成功

2016年10月24日 06:36

不妊で悩む方は多い。しかし、不妊原因の究明や治療法の開発が大きく進展する可能性が出てきた。今回、九州大学大学院医学研究院の林克彦教授の研究グループは、成体マウスの尻尾にある組織由来のiPS細胞から、培養皿上で卵子を作製することに成功。これらの卵子は正常に受精し、健常なマウスとなったという。

 卵子のもつ生物学的・医学的価値は極めて大きく、多能性幹細胞から体外で卵子を産生する培養システムの開発は長い間望まれていたが、これまでにいずれの動物種においても成功例はなかった。これは卵子が長期にわたり極めて複雑な過程で形成されるため、体外培養での再現が困難なことが原因だったからだ。

 この研究では種々の培養条件を検討することにより世界で初めて、多能性幹細胞から卵子までのすべての過程を培養皿上で行う卵子産生培養システムを構築し、成体マウスの尻尾の組織由来のiPS細胞から培養皿上で卵子を得ることに成功した。またこれらの卵子産生培養システムで作られた卵子からは健常なマウスが得られたという。今回の培養方法により機能的な卵子が培養下で作製できるようになったことから、卵子形成の謎の解明につながり、不妊原因の究明や治療法の開発が期待される。

 研究により開発された卵子産生培養システムでは、成体のマウスの尻尾由来のiPS細胞から、すべて過程を体外培養下で再現し、機能的な卵子を得ることに成功した。その過程(IVDi:体外分化培養、IVG:体外発育培養、IVM:体外成熟培養)では様々な分化ステージの卵母細胞が体内と同じように認められた。得られた成熟卵子は体外受精により健常なマウスに発生し、得られたマウスは自身の子供を作る能力をもつ成体に成長した。

 卵子の形成過程は複雑であり、受精卵から始原生殖細胞ができるまでは約6日、その後卵子までには約5週間かかる。以前の研究では多能性幹細胞から始原生殖細胞が作られていたが、その後の分化過程は個体への移植によって行われていた。本研究では約5週間にわたる期間を3つにわけて、それぞれの培養方法を検討することにより卵子の形成過程をすべて体外培養で再構築することに成功したという。(編集担当:慶尾六郎)