九大らがうつ病の重症度や自殺念慮に関連する血中代謝物を同定 客観的診断法開発への応用に期待

2016年12月23日 08:22

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うつ病は、抑うつ気分(気分の落ち込み)、意欲低下(喜びや意欲の喪失)に加えて、罪悪感、自殺念慮(死にたい気持ち)など様々な症状を来たす精神疾患で、自殺に至る危険性も高く、その重症度評価は不可欠だ

 うつ病は、抑うつ気分(気分の落ち込み)、意欲低下(喜びや意欲の喪失)に加えて、罪悪感、自殺念慮(死にたい気持ち)など様々な症状を来たす精神疾患で、自殺に至る危険性も高く、その重症度評価は不可欠だ。うつ病以外にも身体疾患や様々なストレスにより抑うつ症状を呈することがあり、抑うつ重症度評価は精神医療場面に限らず多くの分野で重視されている。これまで抑うつ重症度評価は、精神科医による診察・面接により行う方法が一般的でした。自記式(アンケート)による抑うつ重症度評価法も開発されているが、いずれも本人の主観的な訴えや態度に基づいており、評価が難しいことも稀ではなく、より客観的な評価法の開発が求められている。

 今回、日本医療研究開発機構 (AMED) ・障害者対策総合研究開発事業の支援により、九州大学、大阪大学、国立精神・神経医療研究センター神経研究所らを中心とする共同研究グループは、抑うつ症状を呈する患者(うつ病や躁うつ病患者)から採血し、微量の血液成分から数多くの代謝物を同時計測できるメタボローム解析を行い、うつ病の重症度に関連する血中代謝物(3-ヒドロキシ酪酸、ベタインなど)を発見し、さらに罪悪感、自殺念慮などそれぞれの症状毎に関連する代謝物が異なることを発見した。自殺念慮の有無や強さを予測するアルゴリズムも開発した

 九州大学病院、大阪大学医学部附属病院、国立精神・神経医療研究センター(各機関の連携病院・クリニックを含む)を受診した患者を対象として、専門家面接によるハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)と自記式質問票による PHQ-9という二種類の抑うつ重症度評価を行った。さらに、患者から採血を行い、数多くの代謝物を微量の血液成分から同時計測できる質量分析-メタボローム解析とよばれる手法を用いて、百種類以上の血中代謝物を計測した。

 3つの医療研究機関それぞれの患者において、血中代謝物と抑うつ重症度(HAM-D および PHQ-9 の値)の相関を調べたところ、抑うつ重症度に関連する血中代謝物を20種類同定することに成功した。3-ヒドロキシ酪酸、ベタインなど5つの代謝物は、これら3機関の患者群で共通して抑うつ重症度に強く関連することがわかったという。

 さらに、抑うつ気分、罪悪感、自殺念慮などそれぞれの症状毎に関連する代謝物が異なることを発見した。例えば、自殺念慮に関しては、脳内免疫細胞ミクログリアとの関連が示唆されるキヌレニン経路の代謝物が強く関連していた。人工知能などで活用されている解析技術である機械学習を導入して、数種類の代謝物情報から自殺念慮の有無やその程度を客観的に予測するためのアルゴリズムを開発した。

 この成果を手がかりとして近い将来、精神科以外の医療機関や健診で抑うつ状態の客観的評価が出来るようになれば、うつ病を早い段階で発見し介入することが可能になり、国民全体の精神健康へ貢献することが期待される。さらに、今回見出した代謝物の動態を調べることで、うつ病の病態メカニズム解明が進むことが期待され、代謝動態を調整しうる食品や新しい治療薬開発も期待されるとしている。(編集担当:慶尾六郎)