全日空<9202>は2017年2月15日、日本の航空会社としては初めて、成田とメキシコを結ぶ直行便の運航を開始した。同社では、メキシコに支社などを置く自動車産業関連のビジネス客や、リゾートでのバカンスを目的とした観光客の需要を見込んでいる。
メキシコは中南米における日本の最も重要な輸出先で、主に自動車、自動車関連部品、電子機器などの分野を中心に進出する日本企業が増えており、メキシコ政府が1月13日に発表したところでは、ついに1000社を超えたという。日本企業による対メキシコ投資額も
累計で100億ドルを超えている。とくに2012年以降の直接投資額は急増しており、全日空のメキシコ直行便就航も本来ならば大きな期待をもって注目されるところだが、今は少し、雲行きが怪しい。
その原因は、第45代第アメリカ合衆国大統領に就任したドナルド・トランプ氏。トランプ大統領は、当選直後の記者会見で「私は歴史上最も偉大な雇用創出者となる」と宣言し、ツイッターなどを利用して、メキシコで工場建設を検討する企業への批判を繰り返してきた。そして、名指しでその槍玉にあげられたのがトヨタ自動車だ。同社は、2019年の稼働を目指してメキシコ工場を建設中であり、今後の影響が懸念されている。
トヨタだけでなく、日系自動車メーカーは年間140万台をメキシコで生産しており、しかも、その40%が米国向けに作られている。メキシコから米国への自動車輸出が困難になった場合、その影響は甚大で、各メーカー・関連企業ともに対応に迫られることになるだろう。
自動車用防振ゴムを製造する住友理工<5191>も、1月に経営陣が合宿して新政権への対応を協議する素早い動きを見せた。同社は昨年12月より、北米市場に向けた重要な戦略拠点としてメキシコ第2工場を稼働させている。西村義明会長兼最高経営責任者(CEO)は合宿後、「トランプ米大統領の就任演説の内容は想定の範囲内。少し安心した」と述べている。
全日空の篠辺修社長も、「予約状況はアメリカの政策の影響を受けていない」とコメントしながらも「今後の動向を見極めていきたい」と述べている。油断できない状況であることには間違いないが、グローバル展開を行っている日本企業の経営陣は、それほど極端に悲観的にはならず、現在の状況を冷静に窺っているようだ。
良くも悪くもトランプ大統領の影響は大きく、日本でも連日のようにメディアを賑わわせている。確かに、日本にとってアメリカは経済的にも最も重要な国である。しかし、トランプ大統領の発言に一喜一憂することこそが、彼の戦術にはまっていることになるのではないだろうか。全日空や住友理工のように、迅速な対応で備えながらも、冷静に対応したいものだ。(編集担当:松田渡)