3月15日、NECは賃金カットを柱とした合理化策を労働組合に提案する方針を明らかにした。4月以降、管理職は5から7%、一般社員は5%までの水準で賃金カットを行えば、人件費を100億円程度圧縮できると説明している。基本給だけでなく、福利厚生費や時間外手当のカットも組合との交渉事項に入っているというから、1000億円の連結最終赤字(12年3月期)を受けての「臨時的な措置」という会社側の説明とは裏腹に、社員の待遇を全般的に切り下げて固定化する意図まで感じられる。おそらくほとんどの社員の心中は穏やかではないだろう。
日本の大企業では業績が悪化しても、管理職ではない一般社員の賃金(基本給)までカットする例はほとんどなく、「禁じ手」とされてきた。労働組合との交渉が紛糾し労使関係が悪化するだけでなく、現場の社員のモラールダウンや貴重な人材の流出を招き、業績回復の大きな障害になるからである。ふてくされた若手社員が「2ちゃんねる」などで匿名で業務上の秘密を暴露してウサ晴らしするようなセキュリティリスクも高まるだろう。
日本企業の業績が軒並み悪化したリーマンショック直後の2009年を振り返ると、自動車業界のマツダやホンダの賃金カットは課長級以上で一般社員は対象ではなかった。エレクトロニクス関連ではパイオニアが一般社員も賃金をカットしているが、電機大手になると「禁じ手」は2002年の日立製作所の5%カットまでさかのぼる。ただ当時、部品メーカーのアルプス電気が5%、日本電産が1から5%の幅で一般社員の賃金をカットしているのが目を引く。ということは、ビジネス界に信奉者が多いあの永守重信社長が3年前、苦しまぎれに「禁じ手」を使っていたのだ。もっとも、3年前の日本電産と今回のNECを比べると、賃金の最大カット幅は同じでも背景や事情はかなり異なっている。
当時、永守社長は賃金カットについて「全社で危機感を共有するのが狙いで、赤字転落を予防するためのワークシェアリングだ」と述べている。同社は本体だけでなく、M&Aで傘下に収めた企業でも正社員を1人も削減しないという雇用重視の経営方針を貫いており、リーマンショック後の危機でも人員削減を行わない代わりに、1万人弱の一般社員に賃金カットで痛みを分かちあうことを求めた。それを永守社長は「ワークシェアリング」と表現している。翌年、業績が回復した日本電産はこの時の賃金カット分をボーナスに上乗せして支給し、社員に返している。
こんな形であれば、いくら「禁じ手」でも一般社員の理解を得やすく「雨降って地固まる」という結果も期待できるだろう。永守社長は少なくとも「鬼」ではない。ところが、NECは賃金カットに先立って今年1月26日、国内外で1万人規模の人員削減計画を発表しているのである。社員のリストラは5000人規模に及ぶ見通しだという。
人減らしに脅かされながら一般社員も容赦なく賃金カットでは、社員はたまらない。もし内心、「賃金カットで会社に嫌気がさしてやめてくれれば、人減らしも進むから一石二鳥だ」と思っているとしたら、NECの経営陣は血も涙もない「鬼」ではないか。