総務省統計によれば、近年のスマートフォンの普及に伴うブロードバンドサービスやクラウドサービスの急速な発展とともに、通信トラフィックは年率1.4倍(20年で約1000倍)以上のペースで増え続けている。通信トラヒックの急増に対応する光ネットワークの大容量化は、これまで、光ファイバの基本構造は変えずに、光通信システム装置の大容量化を実現することにより経済的なインフラを実現し、ブロードバンドサービスの普及を支えてきた。現在の大容量光ネットワークの基盤となっている光ファイバの物理的な容量限界は、現在の10倍程度の毎秒100テラビット付近と予測されており、今後も現在と同様のペースで通信トラヒックが増え続けると、2020年代半ばには、既存の光ファイバの容量限界を超える状況(Capacity Crunch)が懸念されている。
Capacity Crunchを回避し、将来にわたり通信トラフィック増に対応可能な大容量光ネットワークを実現するための新たな光通信システム技術として、1本の光ファイバに複数のコアを持つマルチコア光ファイバ等を含む新しい空間的な構造を持つ光ファイバを用いた空間多重光通信技術の研究開発が世界的に注目され研究が活発化している。
日本電信電話(NTT)<9432>は、デンマーク工科大学(DTU)、フジクラ、国立大学法人北海道大学、サウサンプトン大学(UOS)、コリアント有限会社(COR)各社と協力し、32個のコア(光の通路)を持つ光ファイバ1本で毎秒1ペタビット(ペタは1000兆、1000テラ)以上の超大容量データを、205.6kmにわたり光増幅中継することに成功した。
これまでの1本の光ファイバを用いた毎秒1ペタビット容量級の伝送実験に比較し、必要な光信号帯域を従来の半分以下としながら、高効率な世界最長の長距離光増幅中継伝送を実証した。さらに新たな超高速多次元符号化変調技術の適用により、毎秒1ペタビット級光信号の1000km以上の長距離伝送の可能性を初めて示した。
毎秒1ペタビットという数値は、2時間のハイビジョン映画5000本を1秒間で伝送可能な速度に相当し、約1000km級の伝送距離は、日本やヨーロッパにおける主な大都市間の伝送距離に相当する。現在の長距離光ネットワークの伝送容量を、今後も100倍以上に拡大し、ICT社会の更なる発展を支える情報基盤を実現できる可能性を示しているとしている。(編集担当:慶尾六郎)