【総合流通、コンビニの2017年2月期決算】流通大手のV字回復はフェイクではない?

2017年04月18日 06:59

■個人消費の低迷に夏場の天候不順が追い討ち

 4月12日、小売業の総合流通、コンビニ業界主要各社の2017年2月期本決算がほぼ出揃った。

 総務省の「家計調査」では、二人以上世帯の実質消費支出は2016年3月以来、12ヵ月連続で前年割れが続いている。相変わらず個人消費は低調で小売業に逆風が吹いている。

 日本チェーンストア協会が発表する全国スーパー売上高(大手55社/既存店ベース)は2017年2月期、前年同月比でプラスだった月は7、10、11月の3回だけだった。2016年通年の既存店売上高は-0.4%で2年ぶりのマイナス。衣・食・住のうち食は野菜などの供給不足、高騰もあってプラスだったが、衣と住はマイナスだった。

 日本フランチャイズチェーン協会が発表する全国コンビニエンスストア売上高(既存店ベース)は2017年2月期、最初の3月に12ヵ月ぶりのマイナスになった後、5、9、2月と合わせて4回、マイナスになった。新規開店のおかげで2016年通年、全店ベースでは48ヵ月連続プラスを継続中だが、既存店売上高は+0.5%で、2015年の+0.9%から伸びが鈍化した。客単価は一貫して前年同月比でプラスだが、コンビニの好調な業績にも少し陰りが出ている。

 GMSもコンビニも、台風の上陸が相次いだ後、残暑がしつこかった夏から初秋は客数、売上とも落ち込み、全国スーパー売上高は8、9月はマイナス、全国コンビニエンスストア売上高も9月はマイナスだった。食品はまだしも、衣料品は秋物が売れなかった。その後、夏の日照不足のため不作に陥った野菜が10月以降に高騰して売上高が持ち直し、畜産品とともに食品部門を下支えしたが、水産品は不振のままだった。コンビニエンスストアは今やその主力商品になっている惣菜など「中食」食品や菓子など、いわゆるカウンターまわりの商品が売れ行き好調だった。

■「GMS冬の時代」にも春の気配が漂って

 総合流通グループは、セブン&アイのスーパーストア事業(イトーヨーカ堂など)が営業利益で、イオンが全体の当期純利益で、2016年2月期のひどい業績からV字回復をみせた。それは「やればできる底力」をみせた結果なのか? それとも数字上の「フェイク(だまし)」なのか? その答えは今期が終わってみないと、わからない。コンビニは9月にファミリーマートとサークルKサンクス(ユニーGHD)という大型の経営統合があり、「ビッグスリー」への集約化がさらに進んだ。

 セブン&アイHD<3382>のトータルの連結決算は、営業収益3.5%減で2016年2月期の増収から減収に変わった。海外コンビニ事業の売上が円安で目減りしたのが響いている。営業利益は3.5%増で、増益幅が少し拡大し6期連続最高益を記録したものの、当期純利益は39.9%減で、2016年2月期の7.0%減から減益幅を大きく拡大した。年間配当は5円増配して90円。好調なセブンイレブン・ジャパンの業績が営業増益に寄与したが、GMSや百貨店の減損損失やのれん代圧縮で特別損失を1512億円も計上すれば、最終減益幅の拡大は避けられなかった。

 イトーヨーカ堂などGMS(スーパーストア事業)事業は営業収益1.7%減で、2016年2月期の2.4%増収から減収に変わったが、営業利益は62.6%減から316.6%増(約3倍)へ大幅増益を記録した。2期続いた大幅減益からV字回復を遂げたが、それでも営業収益では全体の3分の1を売り上げながら、営業利益では全体の6.3%しか稼げていない。もっとも、ひどすぎた営業損益は不採算店舗の閉鎖、売場構成の見直し、販促費の圧縮など経営努力によって改善をみせている。

 イオン<8267>は、トータルの連結決算の営業収益は0.4%増で、減収にはならなかったが2016年2月期の15.5%増から増収幅を大きく縮小させた。営業利益は販管費抑制が寄与しても4.4%増だったが、25.2%増だった2016年2月期以後の勢いはまだ続いている。その2016年2月期に85.7%減の大幅減益を喫した当期純利益は、店舗などの減損処理で約400億円の特別損失を計上しながら87.3%増と大幅なV字回復を遂げた。それでも金額ベースでは2015年2月期のおよそ4分の1にすぎず、いまだ回復途上。年間配当は2円増配の30円。

 イオンリテール、イオン北海道、イオン九州、サンデーが属するGMS事業は、PBブランド「トップバリュ」の販売が好調で営業収益は6.1%増だったが、営業利益は73.6%減で2016年2月期の19.1%減から大きく悪化し、相変わらず全体の採算の足を引っ張っている。もっとも、減益は旧ダイエー店舗改装の投資負担増という前向きな要因が大きい。GMS事業が大幅営業減益でも、食品スーパーなどSM・DS事業、薬局などドラッグ・ファーマシー事業、総合金融事業は2ケタの営業増益で、GMSの穴を埋めて全体をプラスにできていた。

 「GMS没落」の象徴的存在だったイトーヨーカ堂は、不採算店舗の閉鎖や販促費の抑制を進め、単体決算で2016年2月期に139億円の赤字だった営業損益は2017年2月期、わずか5200万円ながら黒字に転換した。しかし全体としては、総合流通グループの事業のルーツで成長・拡大の核だったGMSに吹く冷たい北風はおさまらず、春はまだ遠い。

■コンビニは「ビッグスリー」へ集中化進行

 セブン&アイHDのコンビニエンスストア事業(セブンイレブン)の営業収益は4.7%減で、2016年2月期の1.9%減から減収幅が拡大した。一方、営業利益は3.0%増で、2016年2月期の9.9%増から増益幅が縮小し、6期連続の過去最高益更新でも勢いは弱まっている。もっとも、既存店売上高が1.8%増で、客数は0.1%増でほぼ横ばいでも客単価は1.7%増。1店舗あたりの平均日商は65.7万円で2016年2月期から0.1万円増加した。他のチェーンより10万円以上多く、収益性はゆるぎない。伸びた商材は「個食需要」を取り込んだ惣菜や冷凍食品などだった。

 ローソン<2651>は、売上高に相当する営業総収入は8.2%増で、17.2%の2ケタ増だった2016年2月期から増収幅圧縮。営業利益は過去最高益でも1.7%増で増益幅が圧縮したが、当期純利益は16.0%増で減益から2ケタ増益に変わっていた。最終増益は3期ぶり。年間配当は5円増配して250円だった。既存店売上高は「ローソン100」も含めると0.1%減。既存店の客数は1.0%減、客単価は0.8%増。1店舗あたりの平均日商は54.0万円で2016年2月期と同じだった。

 中堅コンビニに対して買収ではなく業務提携を行って、神奈川県中心の「スリーエフ」を「ローソン・スリーエフ」に、群馬県中心の「セーブオン」を「ローソン」に転換する計画が着々進行中。2017年2月期は新規出店も含めて店舗数が716店舗、前期末比で約6%増えた。大消費地の首都圏の店舗網を増強してセブンイレブン包囲網を築こうとしている。子会社の成城石井が好調で、閉店減で営業外損失が縮小したことも最終2ケタ増益に寄与した。商品面では「グリーンスムージー」など、ローソンらしい健康志向商品の販売が伸びていた。

 2016年9月、もともとは東海地方が基盤の総合流通グループ、ユニーGHDと合併したユニー・ファミリーマートHD<8028>は、コンビニでは「サークルKサンクス」のブランドを2018年8月末までに「ファミリーマート」に統合する予定。完全統合の予定を半年早めている。

 2017年2月期はファミリーマートの前期比で、経営統合で売上高に相当する営業総収入は109.3%増と約2倍にふくらんだが、営業利益は20.6%増から15.0%増へ増益幅が縮まった。当期純利益は逆に、2016年3月期が最終赤字だったユニーGHDと合併しても、経営統合、店舗転換に伴うコスト負担があっても、不採算店舗を減損処理しても17.9%減から9.8%減へ減益幅が縮まり、改善をみせた。年間配当は2円増配して112円。

 ファミリーマートの既存店売上高は0.8%増。客数は0.3%減、客単価は1.4%増。1店舗あたりの平均日商は52.2万円で2016年2月期から0.6万円増えた。サークルKサンクスの既存店の客数は2.7%減、客単価は1.3%増。1店舗あたりの平均日商は42.5万円で2016年2月期から0.6万円減った。苦戦するサークルKサンクスはファミリーマートと明らかな差がある。「サークルK」でも「サンクス」でも不採算店舗の整理を進めているが、あと1年4ヵ月で看板を全てファミリーマートにかけ替えるまでに、体力の差をどこまで縮められるかが課題である。

 ユニーから引き継いだ総合小売事業は「アピタ」などGMSが含まれるが、営業総収入2.1%減、営業利益30.5%増、減損損失639億円で最終損益は566億円の赤字だった。

 全体的にみればコンビニの2017年2月期は、戦略の重点が新規出店競争から既存店の強化へ完全にシフトしていて、基盤固め、採算改善を行った年だった。セブンイレブン、ローソン、ファミリーマートの「ビッグスリー」は全店平均日販が50~60万円台で前期に引き続き営業利益を伸ばしたが、それ以外のサークルKサンクス、イオングループのミニストップ、スリーエフなどは平均日販が40万円台でビッグスリーに引き離され、収益性の低さにあえいでいる。平均日販でビッグスリーと張りあえるコンビニは、立地が非常に良い駅ナカの「NEWDAYS」を運営するJR東日本リテールネットぐらいしかない。

■コンビニの経営統合、提携の効果を出せるか

 今期、2018年2月期の業績見通しは、大手流通グループのセブン&アイもイオンも増収増益を見込み、数字で「業績回復」「復活」をアピールしている。5年間で全国のイトーヨーカ堂の約2割、40店舗を閉鎖する店舗リストラのような「守り」の手当てが一段落して、将来を見据えて攻めに出る節目になるだろうか?

 コンビニのほうは、セブンイレブンは2ケタの増収だが営業増益は1ケタ、ローソンは増収減益、ユニー・ファミマHDは会計基準が国際会計基準(IFRS)に変わるが、それを度外視して前期と単純に比較すれば増収減益で、どこも売上は増えても利益は伸びない。ローソンとスリーエフ、セーブオンが提携し、2018年8月までにサークルKサンクス全店がファミリーマートに統合されるコンビニ大手は、前期の経営統合や提携の後処理に時間がかかり、再び攻めに転じるまでしばらく時間がかかりそうな状況か?

 総合流通グループのセブン&アイHDの2018年2月期の通期業績見通しは、営業収益は増収に転じ4.5%増、営業利益は増収幅を拡大して6.0%増で、7年連続最高益更新を見込む。当期純利益は前期に計上した特別損失が消えて大幅増益に転じ、82.9%増というV字回復を見込む。予想年間配当は90円で据え置き。大黒柱は言わずと知れたコンビニで、今期は海外で大きく拡大する見通し。GMS(スーパーストア事業)は営業収益1.3%減でも、2017年2月期は約3倍の大幅増益だった営業利益はさらに21.8%増と、引き続き改善効果が出る見込み。

 セブン&アイは「コンビニの父」と呼ばれた鈴木敏文元会長も村田紀敏社長も退任し、井阪隆一社長のもと新体制がスタートしてはや1年。本決算発表と同時に約3660億円でアメリカのスノコからコンビニ事業を買収すると発表した。テキサス州、東部一帯のガソリンスタンド、コンビニ1108店舗を取得し、アメリカのセブンイレブン約8000店舗と合わせれば全米で9000店舗を超える。さらに新規にも出店して全米1万店突破を目指すという。井阪社長は「投資を補って余りある収益を獲得できると確信している」と自信満々。これまで二強の基本戦略はおおまかに「セブンは国内、イオンは海外」と言われてきたが、セブン&アイも海外に積極的に打って出る。

 2017年2月期で当期純利益のV字回復を果たしたイオンは、売上高1.1%増、営業利益5.6%増、当期純利益33.3%増と、当期純利益はさらに大きく積み上がると見込んでいる。GMSの店舗改装投資が一段落するのが追い風。予想年間配当は30円で据え置き。岡田元也社長は「『脱デフレ』は大いなるイリュージョン(幻想)だ」とコメントし、4月17日から「トップバリュ」のPB商品など最大254品目を値下げすると発表した。2016年秋にもPB商品30品目を値下げしており、今期はディスカウント業態の店舗に注力と、国内で低価格路線を強化する構えだ。

 コンビニのセブンイレブン(セブン&アイHDのコンビニエンスストア事業)は、9月に加盟店から得る経営指導料を1%減らすが、店舗買収をテコに積極攻勢に出るアメリカなど海外事業19%増がけん引して、営業収益は13.8%増の2ケタ増収を見込んでいる。営業利益は3.4%増で、2017年2月期の3.0%増から0.4ポイント増えるだけの堅めの見通しになっている。

 ローソンは、営業総収入は6.9%増、営業利益は7.1%減、当期純利益は8.0%減と増収減益を見込んでいる。予想年間配当は5円増配して255円。店舗数は「スリーエフ」「セーブオン」の看板の掛け替えで約900店舗の大量増を見込み、それが増収につながるとみているが、金融事業参入の準備やシステム投資などでコスト負担がかさみ営業利益の連続最高益記録は途切れる見通し。4月20日にJフロントリテイリングが開業させる商業施設「GINZA SIX」に、イスラム教徒向けのハラル認証食品など訪日外国人向け商品を揃えたコンビニを出店する。インバウンド消費も高級品でなければ東京五輪に向けて堅調に推移するとみられている。

 ユニー・ファミリーマートHDは今期から国際会計基準(IFRS)の任意適用を受ける。2018年2月期の業績見通しは営業収益は1兆2373億円、営業利益は412億円、最終当期利益は240億円。数値だけで比較すれば営業収益は増収、営業利益と最終利益は減益になるが、会計基準が異なるので単純比較はできない。年間配当予想は112円で据え置き。

 本決算と同時に2021年2月期で当期純利益600億円が目標の中期経営計画を発表した。コンビニは2018年8月末の完全統合が近づくサークルKサンクスの店舗のテコ入れが必要。旧ユニーGMS「アピタ」など総合小売事業の立て直しも急務だが、今期中の黒字化を見込む。GMSはTSUTAYAなど異業種店舗との提携も進めていく考えだ。

 コンビニ大手は、今期も新規出店よりも、商品やサービスなど中身で勝負する既存店強化が戦略の重点になる。ローソンとファミリーマートは、業務提携や経営統合の効果がどの程度業績に寄与するか、引き続き注目だ。(編集担当:寺尾淳)