■原発が稼働している四電と九電は最終増益
4月28日、電力大手3社(東京電力HD<9501>、中部電力<9502>、関西電力<9503>の2017年3月期本決算が出揃った。
電力10社全体では、主力の火力発電の燃料の大半を占めるLNG(液化天然ガス)の価格が下落し燃料調達費用は2割以上も低下したが、「燃料費調整制度」で燃料費に電気料金が連動するため、増収は昨年8月に伊方原発3号機が再稼働した四国電力<9507>だけだった。昨年4月の電力完全自由化で、東電、中電、関電管内では大都市圏を中心に顧客が新電力に流出したのも収入に響いた。
最終増益は前期の5社から、現在稼働中の原発3基がある四国電力、九州電力<9508>と、原発も大型水力もなく石炭火力依存度が45.3%と高い沖縄電力<9511>の3社に減った。5社が最終減益で、北陸電力<9505>は5期ぶりの最終赤字に転落した。関電の最終利益はほぼ横ばい(微減)だった。
原発の再稼働による利益押し上げ効果について四電は188億円、九電は220億円と公表している。今期は関電の高浜原発で2基、大飯原発で2基の再稼働が予定されている。電気料金を2回値上げした関電は原発再稼働後に値下げを行って利益を顧客に還元する意向。世界最大の東電柏崎刈羽原発など、それ以外の原発の再稼働の見通しは、日本原電、電源開発も含め、現状では立っていない。
電力10社の2018年3月期の業績見通しは、売上高は非公表の東電、関電以外の8社は全て増収で、最終損益は東北電、中電が2ケタ減益、四電、沖縄電が2ケタ増益。それ以外の6社は非公表となっている。
■中電は首都圏進出、関電は原発再稼働に希望を見出す
2017年3月期の実績は、東京電力HDは売上高11.7%減、営業利益30.5%減、経常利益30.2%減、当期純利益は5.7%減の減収減益。前期は増益だった営業利益、経常利益が減益に転じたが、最終利益は68.8%減から減益幅が大きく縮まった。年間配当は2012年3月期から6期連続の無配継続。
最終利益の減益幅が小さくなったのは、前期に計上した一部の老朽火力、水力発電所の減損損失2333億円がなくなったため。なお、特別損失の原子力損害賠償費は3920億円、特別利益の原子力損害賠償・廃炉等支援機構資金交付金は2942億円で、前期の6786億円、6997億円からともに大きく減っている。
昨年4月の電力小売自由化の影響で約180万件の顧客が新電力に流出し、電気料収入は約15%減。〃最大のライバル〃東京ガスの電力事業は新電力最多の76万件の契約を獲得し、今期は100万件突破と黒字化を目指している。東電もLPガス大手の日本瓦斯と組んで今春、小売が自由化された都市ガス供給に参入したが、東京ガスの牙城にどこまで食い込めるかは未知数。なお、電力小売自由化後には中電も首都圏に進出し、東電の顧客を切り取っている。
中部電力は売上高8.8%減、前期は前々期比約2.6倍だった営業利益は52.1%減、約4.2倍だった経常利益は52.5%減、約4.3倍だった当期純利益は32.4%減と、大幅増益から大幅減益にひっくり返っている。しかし、前期は15円増配の年間配当はさらに5円増配して30円。
浜岡原発は2機廃炉、3機停止中で再稼働のメドは立っていない。2017年3月期の販売電力量は前期比0.1%減で3期連続のマイナスだった。電力小売完全自由化で中京圏で顧客の流出が起きた一方で、大消費地の首都圏で新たな顧客を獲得して電力販売を伸ばしている点が特筆される。これが中電にとって最大の「希望」。今年3月、首都圏の競合相手の東電と火力発電事業を全面統合することで合意したと発表した。
関西電力は売上高7.2%減で2期連続の減収。前期に黒字転換した損益は、営業利益は15.2%減、経常利益は18.8%減、当期純利益はほぼ横ばい(1100万円減)で減収減益。年間配当は復配を果たし25円だった。
高浜原発3、4号機は昨年1~2月にいったん再稼働したが、4号機は3日後のトラブルで、3号機は昨年3月に大津地裁が3、4号機運転差し止めの仮処分決定を出したため停止した。関電は大津地裁の仮処分に対し大阪高裁に「保全抗告」を申し立て、今年3月28日、高裁がそれを認め仮処分を取り消す決定を出した。原告側は最高裁に抗告せず再稼働が可能になり、現在、5~6月中の再稼働に向けて作業中。関電はこの高浜3、4号機と、秋にも再稼働を見込む大飯3、4号機の本格運転が実現すれば、速やかに電気料金値下げを実施したいとアナウンスしている。
昨年4月の電力小売全面自由化から1年で約72万件の顧客が関電から新電力に流出した。最大勢力の大阪ガスは1年で約32万件の契約を獲得している。流出の影響は深刻で、販売電力量は5%減で中電に抜かれ1963年以来初めて電力業界で第3位に後退した。
関電は電力大手の中で客離れが最も深刻で、「約5割の高い原発依存度→東日本大震災で原発停止、再稼働進まず→火力発電に依存し燃料費負担が採算を圧迫→2度の電気料金値上げ→電力小売の自由化と重なり顧客が関電を見限る→業績さらに悪化」という悪循環に陥っている。それを断ち切れる関電にとっての最大の希望が「原発再稼働」である。
■都市ガスなど新電力も怖いが、電事連の仲間の越境攻勢も手強い
2018年3月期の通期業績見通しは、東京電力HDは2017年3月期に引き続き未定。予想年間配当は7期連続無配の見通し。
中部電力は売上高6.0%増、営業利益15.7%減、経常利益17.7%減、当期純利益39.0%減の増収減益の見通し。予想年間配当は30円で据え置き。今期からの都市ガス小売自由化で、中京圏でライバルの東邦ガスに対し攻勢をかける。
関西電力は「原子力プラントが運転再開には至っていないことなどから、現時点では一定の前提を置いて業績を想定することができない」という理由で業績見通し、予想年間配当とも未定としている。ただし「業績予想の算定が可能となった時点において、速やかに開示」というので、高浜3、4号、大飯3、4号の再稼働後の下半期には発表されそうだ。4基の原発が本格運転すれば利益を月170億円、半期で1000億円強押し上げるとソロバンをはじいている。それが電気料金値下げの原資になり、顧客の流出を阻み、離れた顧客の呼び戻しに寄与すると見込んでいる。
なお、岩谷産業と組んだ都市ガスへの参入は、セット割で大阪ガスより最大約13%安いとアピールし、約1ヵ月で約14万件の顧客を獲得した。これも顧客の流出阻止と呼び戻しに貢献すると、関電では期待している。
昨年4月に電力小売の地域独占が終わって自由化されると、新電力との競争では「都市ガスとの対決」がよくクローズアップされたが、中電の首都圏進出のような「〃電事連(電気事業連合会)の仲間〃の越境攻勢」もなかなか手強い競争相手。この先、一般家庭でも「江戸の電気を長崎から買う」ような状況になったら、コスト競争力をつけるための発送電分離や再編の波も起こりかねない。(編集担当:寺尾淳)