安倍晋三総理・総裁の一強体制が続いている。支えているのは、党是である自民党結党以来の「憲法改正チャンスを逃さない」、「憲法改正」の1点で、そのためには他には目をつむり、国民の懸念や疑念を解消することも無視し、総理・総裁を守ることが最優先になっている、といえそう。
典型例が森友問題、加計学園、さらに、運用次第で平成の治安維持法にもなりかねない「テロ等準備罪」の強引な手法(委員会審議を打ち切り、いきなり本会議で採決)で新設したことだった。憲法9条(戦争の放棄)の解釈改憲ともいえる集団的自衛権行使に対する変更に始まった安保法制以来、その流れが加速している。
森友問題では、安倍昭恵総理夫人の証人喚問を自民党が拒否した。主権在君・神話的国体観に基づき、いざという時には天皇陛下のために命を投げ出すことを教えた戦前の道徳教育「教育勅語」を現行憲法下で園児に奉唱させ、君が代を歌わせ、軍歌や戦時歌謡の類を歌わせ、自衛隊行事に参加させるなどしてきた学校法人森友学園(大阪市)が開設を目指した小学校の名誉校長に、安倍昭恵総理夫人が一時就任し、建設に際しては「安倍晋三から」と100万円が昭恵夫人の手で籠池泰典理事長(当時)に寄贈されたという籠池氏自身の証言。学園への国有地売却に8億円の値引きが行われた真相や総理の100万円寄付の真相は闇のままだ。
ちなみに森友学園は理事長が交代し、「教育勅語の奉唱」「軍歌や戦時歌謡の類の斉唱」「自衛隊行事に参加させる」「伊勢神宮参拝旅行」は学校法人として改めるべき内容だったと結論づけ、今月、HPで告知した。
いずれにしても、安倍総理自身は天皇を国家元首に、天皇崇敬の環境整備を目指していることは確かで、その方向において、当時の森友学園の教育には特別な思い入れがあったのではと推察できる。8億円の値引きに「神風が吹いた」と籠池泰典氏が国会の証人喚問で証言した。真相は何も解明されていない。
さらに、総理の友達が理事長を務める学校法人加計学園(岡山市)の大学への獣医学部新設を巡る「総理の御意向」「内閣府の最高レベルが言っている」などの文書が確認されたにもかかわらず、政府・与党には、真相解明姿勢がみえない。
当初に「文書は存在する」「文書は本物」と記者会見し、国民に知らせた前川喜平・前文部科学事務次官に対し、プライベートな人格攻撃が総理に近いマスコミから行われた疑惑や文書を「怪文書」と葬り去ろうとした菅義偉官房長官。「政治が歪められたのではないか」との疑念は全く払拭されないままだ。
国会は閉会したが、真相究明のための閉会中審査を行い、加計学園問題の真相解明に、萩生田光一内閣官房副長官、藤原豊内閣府審議官の証人喚問が求められている。獣医学部新設を希望した京都産業大学をはじき出すためとも受け取れる「広域的に」などの文言を追加させた本当の人物は誰か。
合わせて、政府・与党は「獣医学部新設」の選定過程が公平・公正に実施されたということを客観的資料に基づき、これを提示し、国民に明らかにすべきだ。
今回の松野博一文科大臣、山本幸三地方創生担当大臣の調査発表時期は「国会での野党追及からの逃げ切りを図ったもの」としか思われない。そこまでしても、自民党は安倍総理・総裁を守る必要があった。
その理由が「憲法改正」に他ならない。憲法9条に自衛隊を書き込む。いかにして、現行憲法枠の中での自衛隊活動範囲を堅持することを担保するのか、時の政権に解釈次第で裁量できるものであってはならない。書き込むこと自身にも議論に熟慮を要する。集団的自衛権の行使をフルで行えるような抜け道を創れば憲法9条は崩壊する。
憲法改正問題は「9条への自衛隊追記」に留まらず、「緊急事態条項の追加」や「天皇を『元首』と位置づけ、『国旗』『国歌(君が代)』『元号』まで憲法に盛り込もうとの狙いがある。
「君が代」については、国旗国歌を別々に議論すべきところを、世論を無視し、当時の自民党は一括し一気に決めた経緯がある。このため、今も学校などで国歌斉唱を拒否、あるいは起立拒否の事例が後を絶たない。
少なくとも、天皇陛下は「君が代斉唱」が強制にならないよう、対応を配慮するように意向を示されていた。斉唱や起立が思想信条に合わないから、規則に違反しても斉唱や起立をしないのであろうから、規則違反として処罰対象にするのではなく、そうした規則を変えることこそ必要だろう。現実運用に寛容さが必要と筆者は考えている。
いずれにしろ、自民党は安倍総裁の5月の憲法改正の意思表明の下、2020年の改正憲法の施行を目指し、年内に具体案をまとめ、来年の国会で憲法改正発議することを自民党議員の使命に位置付け走っている。
安保法制で国民世論が二分し、反対運動が全国で展開されたが、テロ等準備罪が時の政権により悪用され、憲法改正をめぐる反対運動封じ込めに使われることがないよう、「国会の御審議、御議論を踏まえながら、国民の生命・財産を守るために、本法を適切に、そして効果的に運用していきたい」(安倍総理)とした発言の誠実な履行を期待する。
一方、国民はこれまで以上に、政治に敏感でなければならない。あわせて、森友問題、加計疑惑の真相解明を諦めてはならない。国民の意識が政治を動かしていることは、政治家が一番感じていることだからだ。(編集担当:森高龍二)