国立がんセンターと慶應義塾大学大学院の岩本隆特任教授の試算により、2016年7月からの1年間に使いきれずに破棄された抗がん剤は約738億円分にもなることが分かった。これは患者全体に投与される金額の9.8%を占め、1割弱の抗がん剤が使用されずに廃棄されている実態が明らかになった。
がんは国内のあらゆる疾病の中で最も死亡率の高い病気であり、長年日本人の死因第1位となってきた。しかし100種類以上あると言われる抗がん剤は保険適用外であることに加えて開発費用が莫大であるためどれも高額で、患者にとって大きな負担だ。実際医療費の支払い能力がないために受けられる治療が限られてしまうという患者も少なくない。そんな中で約738億円分もの抗がん剤が破棄されているという試算に医療関係者のみならず、国も危機感を持ち始めている。実際厚生労働省は抗がん剤の使用の無駄をなくすための調査を始めた。
しかし物事はそれほど簡単ではない。液体の抗がん剤は瓶に入っているが、開封してもすべてを患者に投与できるとは限らない。患者によって体重や体力、がんの進行度は異なるからだ。瓶内の抗がん剤すべてを投与できなかった場合、破棄せざるを得ない。開封後は最近による汚染の恐れがあるとメーカーが指摘しているからだ。もし40万円の抗がん剤のうち3分の2しか投与できなかったとすれば、13万円以上が無駄になったことになる。規模の大きな病院になればなるほど、患者数も増え破棄される抗がん剤の金額は大きくなる。破棄される抗がん剤の約8割にあたる601億円は大病院で出ている。抗がん剤を多く販売したいメーカーと、大量の抗がん剤を破棄する大病院の間には絶妙なバランスが保たれているのだ。
こうした抗がん剤の破棄を最小限に抑えるために行えることはたくさんある。メーカーが1瓶の内容量を少なくすれば、それだけでもある程度の効果があるだろう。加えて残薬の管理を徹底して行い、汚染を最小限に抑えられるようになれば残薬の再使用が可能になる。メーカー、医療機関、そして政府が協力して無駄の削減に取り組むことが必要だろう。税金の中から数百億円もの無駄が出ている現状を変えるため、国による残薬再使用のガイドラインの策定が急務だ。(編集担当:久保田雄城)