来年は地方統一選挙や参院議員選挙があるが、政府が人口の東京一極集中抑制策として、究極の「バラマキ」策を打ち出した。東京・千葉・埼玉・神奈川のいわゆる東京圏から地方に移住し、起業する人に最大300万円を補助する制度をつくるという。東京圏から地方に移住し、中小企業に就職した場合にも最大100万円を補助するそうだ。内閣府が2019年度予算概算要求に盛り込んだ。
起業には業種にもよるが、数百万円かかる。開業後も経営が軌道にのるまで投入できる運転資金が必要だ。しかし、知らない地方の市場性の見極めにはプロでも時間がかかるだろうし、経営計画立案の難しさが容易に想像できる。
政府はどこをどのようにサポートし、継続性、成長性、将来性を助言できる体制をつくるのか、補助金のみなら、まったくの「税の無駄使い」になる。個人に税金をプレゼントするようなものとなり、地方の活性化につながらない。
寂れた商店街の空き店舗を利用して起業しても、1年持つかどうかわからない。1年持たず廃業するようなことになれば300万円は戻させるのか。廃業に追い込まれた起業者には即金で全額返済の能力はないだろうから、対応は難しい。
大阪府千早赤阪村では買い物弱者のために村独自に開業資金最大300万円を補助する制度を設け、開業した弁当店に300万円を補助したが、1年持たず閉店したため、300万円の返還を求めているとの報道があった。
一旦開店した商店街店舗が再び閉じたままになれば、以前に増して寂しさを倍加させることにもなる。制度をつくるなら、起業の補助金のみでなく、市場性の分析、経営ノウハウなど1~2年のサポートと見守り体制が必要だ。失敗すれば互いに不幸な結果を招くだけだ。失敗しない計画と努力とサポートが必要だ。
また、すでに地方で起業している人たちとの不公平をどうバランスするのか、これも問題だ。首都圏からではなく、地方で起業している事業者らは自己資金のほかに銀行から何某かの融資を受けて経営しているはず。300万円の融資に対する返済は利息を含め毎月定額返済しているにしろ、月額5万~10万円程度は返しているはずで、銀行は1円たりとも返済額をサービスするわけではない。都会から地方にきて起業するだけで300万円の補助には地方の零細小企業事業者が納得できるだろうか。補助金は「国税」だ。
内閣府はこの制度の目的に「地方から東京圏への転出超過が毎年10万人を超える。15年で地方の若者は約3割減った。東京一極集中の是正・地方の担い手不足への対処を目的にするもの」としているが、こうした制度は実施前の制度設計をいかに精度の高いものにし、国民が納得できるものになっているかどうかだろう。慎重な制度設計を行う責任が政府にはある。起業の300万円。受けた側も、起業においてはあっという間になくなる金額でもある。(編集担当:森高龍二)