損害保険の国内市場は完全な頭打ち状況にあるが、その中で活発に契約の拡大を続けている保険商品がある。コンピューターウイルスなどサイバー攻撃による損害を補償する「サイバーリスク保険」だ。東京海上日動火災保険では、同保険の新規契約数が18年9月末時点で前年同月比1・4倍、損保ジャパン日本興亜も同1・5倍の保有契約件数を獲得し、業界を驚かせている。保険市場全体が苦しむ中、なぜこれだけの躍進が可能なのか。
サイバーリスク保険に対する需要と関心の高さは火を見るより明らかだ。東京海上日動火災保険と損保ジャパン日本興亜は、2018年4-9月の同保険の新規契約数でそれぞれ前年同期比20%、同15%増と共に好成績を収め、成長分野と見た両社は、商品のさらなるサービス開発とキャンペーンに力を入れている。また、双日の完全子会社でサイバー保険の代理店でもある双日インシュアランスには、ネット経由でサイバーリスク保険への問い合わせが殺到し、同社の企業営業部をして「早期にサイバー保険の新規契約企業100社を目指す」と言わしめている。保険市場に明るい話題が飛び込んでなによりだが、気になるのは急成長の背景だ。
サイバーリスク保険の需要拡大要因は、大きく2つあるという。1つは、中小企業においてサイバー攻撃対策が十分でないと、大手企業との取引がしづらくなる状況があることだ。大手企業がサイバー攻撃リスクを回避するため、中小企業に対してサイバー攻撃対策を取引条件にするという格好だが、中小企業としてはこの条件を飲まざるをえない。そして2つ目は、来たる20年東京五輪で開催地の日本がサイバー攻撃の標的になる恐れがあり、そのリスク管理が保険活用への呼び水になっていることだ。経済産業省の独立行政法人、情報処理推進機構の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver 1.0」でも、サイバーセキュリティ対策としてサイバー保険活用が示されており、行政のお墨付きまで加わった感がある。
今後、少なくとも東京五輪終了まではサイバー保険への需要拡大は続く見通しだ。損害保険各社も貴重な成長分野として付帯サービスの開発に注力する予定だが、主な加入者となる中小企業には課題が突きつけられている。それは保険の補償とサービスの適用範囲を十分に確認しておく必要があること、また、保険適用外のトラブルに対する備えをしておくことだ。サイバーリスク保険は頼もしいが、全てのトラブルを補償できるわけではないことを肝に銘じてほしい。(編集担当:久保田雄城)