京都に本社を置く日本電産、京セラ、ローム、村田製作所の電子部品「京都4社」は、このセクターで日本を代表する主要メーカーである。10月31日に出揃った4~9月期(第2四半期)の中間決算は4社とも増収増益で、揃って非常に好調だった。日本電産は期末配当見通しを上方修正し、ロームと村田製作所は通期業績見通しを上方修正した。
■「米中貿易戦争」にも備え万全の日本電産
日本電産の4~9月期決算(国際会計基準/IFRS)は、売上高は8.6%増の7776億円、営業利益は20.1%増の982億円、税引前利益は29.7%増の982億円、四半期純利益は32.1%増の785億円だった。前年同期比で売上高の伸び率は2ケタの26.9%から1ケタの8.6%に減速したが、利益項目の伸び率はいずれも20~30%台へ加速をみせている。売上高、営業利益、税引前利益、四半期純利益の全項目で中間期ベース過去最高を更新。中間配当は前年同期から5円増配して50円とした。4~9月期最終利益の通期見通しに対する進捗率は53.4%で、6月20日付で社長兼COO(最高執行責任者)に就任した吉本浩之氏にとっては、順調な船出になった。
カテゴリー別では、創業以来の製品グループである「精密小型モータ」の外部売上高伸び率3.8%に対し、重点2事業と位置づける「車載」のそれは8.1%、「家電・商業・産業用」のそれは8.8%で、主力製品の小型モーターでは、HDDなど電子部品用からパワーステアリングなど車載用、エアコンなど家庭用や産業用へのシフトがより明確になった。営業利益も精密小型モータの370億円に対して重点2事業は合計511億円で、売上高利益率は精密小型モータの16.2%に対し15.1%、10.4%とまだ譲るが、利益額では完全に日本電産の主力分野に躍り出ている。この3事業に「機器装置」を加えた主要4部門は全て増収増益だった。
通期業績見通しの売上高は7.5%増の1兆6000億円、営業利益は16.9%増の1950億円、税引前利益は14.6%増の1875億円、当期純利益は12.4%増の1470億円。上方修正は7月25日に行ったばかりで今回は据え置きだったが、6期連続で最高益を更新する。想定為替レートは1米ドル=100円、1ユーロ=125円で変更なし。期末配当予想は当初予想を5円上回る前期比5円増配の55円に上方修正し、予想年間配当は前期比10円増の105円になる見込み。
日本電産と言えば、M&A。4月に約1170億円でアメリカの家電大手ワールプールから冷蔵庫部品メーカー、エンブラコを2019年度に買収すると発表したのに続き、7月にはイタリアの中堅モーターメーカー、チーマ社を、9月にはドイツの精密減速機メーカー、MSグレスナー社の買収を完了している。さらに約500億円を投じ、産業ロボット部品、工作機械などを手がけるドイツ企業5社の買収も発表。10月には台湾の放熱部品大手、超衆科技(CCI)に対してTOB(株式公開買い付け)を通じた48%出資を決めている。
2020年度を最終年度とする中期戦略目標「Vision2020」では、連結売上高2兆円、車載売上高7000億円~1兆円、連結営業利益率15%以上、ROE(株主資本利益率)18%以上の数値目標達成と、グローバル5極経営管理体制の確立を掲げている。
なお、中国からアメリカへの輸出に関税率25%の報復関税をかける「貿易戦争」に対応するため、10月に新貿易協定「USMCA」(旧NAFTA)で暫定合意したメキシコにある自動車部品、家電部品の工場に2018年度中、約200億円を投資し、それぞれの生産能力を倍増させて中国からの生産シフトを進める予定になっている。
■M&A効果が京セラの業績を押し上げる
京セラの4~9月期決算(国際会計基準/IFRS)は、売上高は8.4%増の8006億円、営業利益は19.2%増の826億円、税引前利益は16.4%増の1056億円、四半期純利益は23.6%増の783億円で、利益項目はいずれも2ケタ増益だった。売上高、営業利益、税引前利益、四半期純利益は過去最高を更新している。中間配当は前年同期と同じ60円。4~9月期最終利益の通期見通しに対する進捗率は58.5%だった。米ドルもユーロも当初の想定よりも円安に振れ、売上高ベースで約10億円、税引前利益ベースで約15億円の為替差益が出ているという。
事業セグメント別の売上高は2本柱の部品事業は19.5%の2ケタ増収でも、もう一つの柱の機器・システム事業は4.1%の減収。産業・自動車用部品はM&A効果が出た機械工具、半導体製造装置向けファインセラミック部品、電装化が進む車載用のセンサー、カメラモジュールの売上増が寄与して22.7%の増収。電子デバイスはアメリカ子会社AVXのM&A効果、スマホ向けセラミックコンデンサ、産業機器向けプリンティングデバイスの売上増が寄与して33.9%の増収だったが、半導体関連部品は0.5%増でほぼ横ばい。前年同期は2ケタ増収だったデジタル複合機などドキュメントソリューションはM&A効果は出たものの3.9%増と減速、通信機器の売上減でコミュニケーションは7.3%の減収、太陽光発電関連の売上減が続く生活・環境は22.7%の大幅減収だった。
事業利益は前年同期と比べると、87%増だった部品事業は29.0%増と減速し、約3倍の増益だった機器・システム事業は研究開発費の増加もあり32.7%の減益へ暗転した。部品事業では産業・自動車用部品は49.8%、電子デバイスは57.4%の大幅増益でも、半導体関連部品は好採算の光通信用セラミックパッケージの売上減が響いて23.6%の大幅減益。機器・システム事業は前年同期2ケタ増益だったドキュメントソリューションはかろうじて0.7%の増益で、コミュニケーションは65.8%の減益。生活・環境は赤字が5.9億円から63.9億円へ拡大した。
通期業績見通しは売上高4.6%増の1兆6500億円、営業利益69.8%増の1540億円、税引前利益46.2%増の1900億円、当期純利益は69.3%増の1340億円で修正していない。期末配当予想は前期末と同じ60円で、予想年間配当は前期と同じ120円に据え置いた。事業別では産業・自動車用部品、電子デバイスの売上と事業利益を上方修正した一方で、半導体関連部品の売上と事業利益、生活・環境の売上と事業損益(赤字)を下方修正している。産業機械向け、自動車向けの部品の需要は堅調でも、スマホ向け部品は季節調整を予想し、太陽光発電関連は期初の想定を大きく下回る見通しになっている。
京セラの中期目標は、2021年3月期で過去最高の売上高2兆円、税引前利益率2ケタの達成だが、事業ごとの業績の凸凹はあるものの、視界はまず良好と言える。
■好調なロームは通期業績見通しを上方修正
ロームの4~9月期決算は、売上高は5.2%増の2108億円、営業利益は18.8%増の353億円、経常利益は41.5%増の441億円、四半期純利益は33.9%増の309億円という2ケタ増益決算。前年同期の最終3ケタ増益に比べると落ち着いた内容だが、利益はしっかりと伸びている。中間配当は前年同期の120円から45円減の75円だが、前年同期では記念配当55円がついており、それを除けば実質10円の増配になる。4~9月期の最終利益の通期見通し(上方修正済み)に対する進捗率は61.8%だった。
売上高はおおむね当初の予想通りに推移。営業利益は為替の円安に加え、製造経費や研究開発費が計画値以下に抑えられたことで計画値を約18%上回って着地できた。経常利益、最終利益も想定為替レート1米ドル=105円を期中平均で5円以上も超える円安によって為替差益が発生し、当初予想を大幅に超える増益だった。藤原忠信新社長は好業績で幸先のいいスタートを切った。
自動車関連は「安全」「環境」へのニーズの高まりでエレクトロニクス製品の実装率が上昇し、大規模集積回路(LSI)、半導体素子などの需要が引き続き好調。新車販売台数はアメリカ市場の減速傾向をヨーロッパ、中国、アジアがカバーしている。産業機器関連はIoT(モノのインターネット)化の進展で伸びたFA機器向けはやや減速気味で、パソコン、スマホ関連は低調だったが、省エネ型のエアコンなど白物家電向けの半導体、電子部品は引き続き堅調だった。
セグメント別では、LSIの外部顧客向け売上は前年同期比3.4%増、セグメント利益は7.8%増。自動車向けでは絶縁ゲートドライバICなどが売上を伸ばしている。「NINTENDO Switch」などが関連すると見られるアミューズメント向けは引き続き好調。半導体素子の売上は8.2%増、利益は16.1%増。自動車向け、産業機器向けのパワーMOSFET、自動車向けのパワーダイオードなどが好調だった。モジュールの売上は1.4%増、利益は47.8%増。決済端末向けなどのプリントヘッドが売上を伸ばしている。抵抗器、コンデンサなどその他の分野の売上は7.0%増、利益は41.6%増。抵抗器は自動車向けが売上をリードした。全分野が増収増益で、セグメント利益はLSI以外は2ケタの増益と好調だった。
ロームは4~9月期の決算発表と同時に通期の業績見通しを上方修正した。売上高に修正はないが、営業利益は当初予想を40億円上回る前期比8.8%増の620億円、経常利益は当初予想を90億円上回る29.1%増の700億円、当期純利益は当初予想を60億円上回る34.2%増の500億円としている。予想期末配当に修正はなく前期比45円減の75円だが、前期末は記念配当55円がついており、それを除けば実質10円の増配。予想年間配当は前期比90円減の150円だが、前期の記念配当分110円を除くと実質20円の増配になる。
上方修正の理由として、上半期の業績の好調さ、自動車関連や産業機器関連のエレクトロニクス機器需要が堅調で通期の売上高が期初の予想通りに推移しそうな上に、想定を超える為替の円安によって営業利益も経常利益も当期純利益も押し上げられそうな見通しを挙げている。なお、下半期の為替レートは1米ドル=110円を想定している。
ロームは10月30日の4~9月期決算、通期業績見通しの上方修正の発表と同時に、200万株、100億円を上限とする自己株式の取得(自社株買い)も発表した。取得期間は12月28日までで、200万株は自己株式数を除いた発行済株式総数の1.9%にあたる。
■村田製作所も通期業績見通しを上方修正
村田製作所の4~9月期決算は、売上高は27.2%増の7883億円、営業利益は38.7%増の1394億円、税引前四半期純利益は30.0%増の1427億円、四半期純利益は18.9%増の1083億円の2ケタ増収増益で、きわめて好調だった。中間配当は前年同期比で10円増配の140円とした。4~9月期最終利益の上方修正済みの通期見通しに対する進捗率は51.5%である。
売上高は、特に主力製品の積層セラミックコンデンサの販売の伸び方が自動車向けでもスマホ向けでも大きく、前年同期よりドル円ベースで80銭、円高に振れた為替変動の影響を完全に吸収した。2017年9月にソニーから取得を完了したリチウムイオン二次電池の売上計上も中間期の増収に大きく寄与している。地域別では中国などアジアで減速する一方、日本やヨーロッパは堅調で、北米・中南米では前年同期比で売上高がほぼ倍増する勢いをみせている。
利益は、操業度の向上、原価低減の取り組み、新製品の継続的な投入による増益分が、旺盛な需要に対応する設備投資関連費用の増加による減益分を吸収し、大幅増益となった。
製品分野別の前年同期比売上高は、コンポーネントは33.0%増、モジュールは15.6%増となっている。コンポーネント分野の圧電製品はスマホ向け表面波フィルタなど高付加価値製品の需要の低迷により2.5%の減収だったが、コンデンサは30.9%増、リチウムイオン二次電池などその他コンポーネントは58.3%増だった。EMI除去フィルタやMEMSセンサも自動車向けで伸びている。モジュール分野の通信モジュールはスマホのハイエンド機種向けが好調で19.0%増になり、OA機器向け電源がふるわなかった電源他モジュールの9.2%減収をカバーしている。
中間期の好業績を受け、4月27日に発表した売上高、利益3項目の通期業績見通しを全て上方修正した。売上高は当初予想を450億円上回る18.1%増の1兆6200億円、営業利益は当初予想を350億円上回る68.4%増の2750億円、税引前当期純利益は当初予想を380億円上回る66.9%増の2800億円、当期純利益は当初予想を300億円上回る43.8%増の2100億円とし、通期でも大幅な増収増益を見込んでいる。最終利益は3期ぶりの最高益更新になる。予想期末配当は前期比10円増配の140円、予想年間配当は前期比20円増配の280円で、ともに修正していない。
通期業績見通しの上方修正の理由については現状、想定よりも円安に振れている為替水準とともに「自動車の電装化の進展、スマートフォンの高機能化などにより引き続きコンポーネント製品を中心に需要は推移すると見ております」と、部品需要の好調さが世界的に続く見通しを挙げている。特にカーエレクトロニクス向けは環境対応、安全対応で1台あたりの電装品の搭載数が飛躍的な増加をみせており、パソコンやスマホ向けもその高機能化によって1台あたりの部品数が増加している。業績見通しの前提としている下半期の想定為替レートは、1米ドル=110円、1ユーロ=130円。ドル円は上半期の105円から5円、円安に修正した。
好決算の電子部品「京都4社」も米中の貿易問題と決して無縁ではなく、中国向けは需要減少の影響を受けている。全体的に好調さが続く自動車向けに比べると、スマホなど電子機器向けは不振に陥った製品もちらほら見られる。それでも全体的にみて非常に力強い決算内容なのは、製品それ自体の力もさることながら、「時間を買う」ような戦略的なM&Aも大いに寄与している。M&Aで大当たりを繰り返す日本電産だけでなく、好業績を背景に、今後も各社は活発なM&Aを展開しそうだ。(編集担当:寺尾淳)