京都市や、その近郊に本社を置く日本電産、京セラ、村田製作所、ロームは、日本を代表する電子部品メーカーの「京都4社」。村田製作所以外の3社の4~12月期(第3四半期)決算は好調で通期業績は大幅営業増益を見込んでいる。日本電産はEV向けやロボット向け、京セラは半導体製造装置向け、村田製作所とロームは車載向けというように、ひところ業績寄与度が高かったアップル「iPhone」などのスマホ向け部品からそれ以外の需要にシフトする傾向が強まっている。
■2018年3月期は、日本電産、京セラ、ロームの3社は2ケタ増益の好決算を見込む
日本を代表する電子部品メーカー、日本電産、京セラ、村田製作所、ロームの「京都4社」の業績は、減益見通しの村田製作所を除く3社が2ケタ増益を見込み、好調だ。
日本電産の4~12月期決算は、売上高は前年同期比27.4%増の1兆1059億円、営業利益は19.7%増の1271億円、四半期純利益は16.1%増の947億円という2ケタ増収増益。4~12月期最終利益の通期見通しに対する進捗率は73.9%である。
通期業績見通しに修正はなく、売上高は前年同期比20.9%増の1兆4500億円、営業利益は22.0%増の1700億円、当期純利益は15.3%増の1280億円で、5期連続最高益になる見込み。それを花道に6月に創業者の永守重信会長兼社長が社長を退任し、吉本浩之副社長が新社長に就任することが発表された。国内外の積極的なM&Aで、2020年度までに売上高を5000億円上積みする中期戦略目標がある。
京セラの4~12月期決算は、売上高は前年同期比12.9%増の1兆1450億円、営業利益は62.4%増の1089億円、四半期純利益は27.4%増の902億円で、2ケタ増収増益。4~12月期最終利益の通期見通しに対する進捗率は83.5%である。
通期業績見通しは、売上高は前年同期比9.6%増の1兆5600億円、営業利益は29.1%増の1350億円、当期純利益は中間期で上方修正した予想を110億円下方修正して4.0%増の1080億円とした。最終利益下方修正の理由はアメリカの税制改正(トランプ税制)に伴って、現地子会社で一時的に繰延税金資産を取り崩して税金費用を計上したためで、減損損失や特別損失の計上のようなネガティブな要因ではない。2021年3月期に過去最高の売上高2兆円、税引前利益率2ケタを達成するという中期目標がある。
村田製作所の4~12月期決算は、売上高は前年同期比19.3%増の1兆331億円、営業利益は12.2%減の1444億円、四半期純利益は5.1%減の1204億円という2ケタ増収ながら減益決算。4~12月期最終利益の通期見通しに対する進捗率は83.6%である。
通期業績見通しに修正はなく、売上高は前年同期比19.9%増の1兆3620億円、営業利益は15.5%減の1700億円、当期純利益は7.7%減の1440億円。通期でも2ケタ増収ながら減益の決算を見込んでいる。
ロームの4~12月期決算は、売上高は前年同期比14.8%増の3036億円、営業利益は77.4%増の455億円、四半期純利益は37.5%増の343億円で2ケタ増収、2ケタ増益と好調。4~12月期最終利益の通期見通しに対する進捗率は93.9%と高い。
通期業績見通しは、売上高は前年同期比10.8%増の3900億円、営業利益は54.0%増の490億円、当期純利益は前年同期比38.1%増の365億円で2ケタ増収、2ケタ増益で修正はなかった。
■アップルは「iPhone X」を減産、中国製スマホも生産調整局面に入るが、影響は軽微
数年前まで、日本の電子部品メーカーの業績に大きく貢献していた需要先は「スマホ」だった。アップルの「iPhone」や中国製のスマホが世界で売上を伸ばしていたからである。ところがそのアップルは、2017年9月に発売した有機ELパネルや顔認証を搭載した「iPhone X(テン)」の売れ行きが日本円で11万円を超える高価格が敬遠されて伸び悩み、2018年1~3月期で減産を行うと報じられた。中国のスマホ生産も競争激化のあおりを受けて調整局面に入っている。
アップルや中国製スマホの失速を先取りするかのようにNAND型フラッシュメモリー価格は2017年秋頃から下向きに転じ、村田製作所やTDKやアルプス電気のようなアップル依存度、スマホ依存度が高いメーカーの業績も悪化するのではないかと懸念された。
しかし、その心配は無用だった。村田製作所の今期の減益見通しはソニーから買収したリチウムイオン二次電池事業の赤字、歩留まり(不良品率)問題が原因の樹脂多層基板「メトロサーク」の生産遅れなど別の要因によるもの。TDKの通期見通しは営業利益、最終利益で50%を超える減益を見込むが、それも高周波部品事業の売却やアメリカの税制改正の影響など別の要因で、第3四半期の決算説明会で山西哲司取締役は「現時点でアップル減産による大きな影響はない」と述べている。リチウムイオン二次電池の事業は依然好調。アルプス電気の通期見通しは大幅増収増益で、アップルや中国製スマホの影響などはみじんも感じさせない。京セラの通期最終利益見通しの下方修正もアメリカの税制改正の影響によるものである。
なぜ、アップルの減産や中国製スマホの生産調整の影響はそんなに軽微ですむのか? 「アップルでも『iPhone 8』『iPhone 8 Plus』や旧モデル『iPhone 7』の売れ行きは落ちていない」「中国製スマホも落ち込みはさほど大きくはない」という声もあるが、日本の電子部品メーカー各社が「アップル離れ」「スマホ離れ」の先手を、数年前から戦略的に打ってきたことも無視できないだろう。依存度が低下すれば影響も小さくなる。それは「京都4社」も同様だった。
■自動車はスマホと肩を並べ、産業機械やロボットや家電も需要先として存在感を増す
日本電産は電装化が進む車載向け需要に大きく舵を切っている。車載用モーターの市場は2030年までに6兆円規模になると見込んでいる。現在の重点市場は「車載」「ロボット」「省エネ家電」「飛行ロボット(ドローン)」の4つで、スマホも通信機器もそこには見当たらない。来期の設備増強の軸になる製品として、EV向けのトラクションモーターやロボット向けの減速装置を挙げている。
京セラも、戦略的に重視する市場は半導体全体で、スマホはあくまでもその一部というスタンス。半導体製造装置向けのセラミック部品は来期の生産量が今期の1.5倍を超えるだろうと予測している。業績がふるわない太陽電池セルや通信機器の生産から転換した工場を有効活用して、車載向け、産業機器向けの活発な需要を取り込もうとしている。
スマホ向けの高周波部品を手放した村田製作所は、主力製品のコンデンサーの需要先もスマホ向けから車載向けへ大きくシフトしており、高水準の受注が続く。自動車の安全性や利便性の向上による電装品搭載数の増加など、車載向け需要の拡大に来期、増益基調に反転する期待をかける。既存製品から周辺に向かって事業領域を拡大する「にじみ出し戦略」で、ヘルスケア・メディカルの分野もいま伸ばそうとしている。
ロームの場合はスマホ向けの売上高構成比がもともと6~7%程度しかなく、アップルの減産や中国製スマホの生産調整の業績に対する影響はほとんどない。主力のLSI分野、半導体素子分野の需要先の大半は自動車やIoT(モノのインターネット)化が進む産業機械で、省エネ型エアコンなど家電や「ニンテンドースイッチ」などゲーム機向けの需要も伸びている。
EV、HV、PHV向けに好調な絶縁ゲートドライバICが大きく伸びたほか、電源IC、SiCパワーデバイス、電源用パワーMOSFET、パワーダイオードなど、「電動化」が進む車載向け需要に支えられている。前期にLED照明事業から撤退したが、それに代わって車載用LEDドライバICが成長。抵抗器はスマホ向けの需要減少を車載向けの増加で完全にカバーした上に、さらに売上を上積みしている。
電子部品業界は、スマホの業績寄与度が非常に大きかったので、まるで「スマホ一本足」のようなイメージがあったが、「京都4社」は自動車、産業機械、ロボット、ゲーム機、家電などへ需要先の分散をきちんと進めてきた。いま、自動車は世界的な「EVシフト」という追い風も吹き、需要先としてスマホと肩を並べるまでになっている。IoT化の流れは生産部門でも流通部門でも物流部門でもセンサーや通信用部品の需要を押し上げている。この先もし、アップルをはじめスマホのメーカーからの受注がさらに落ち込んでも、それにとって代わるようなしっかりした需要先は、すでに確保されている。(編集担当:寺尾淳)